ビスマス系

 Bi系の超伝導体はBi2Sr2Can-1CunO4+2n+δという 化学式で表され、層状の結晶構造を持つ高温超伝導体の1種です。 私たちは1988年に前田らによって発見された n = 2のBi2Sr2CaCu2O8+δ(Bi2212), n = 3のBi2Sr2Ca2Cu3O10+δ(Bi2223)を扱っています。 Bi2223はFig. 1のような結晶構造で、Bi2212は間のCuO2面が1枚少ない構造になっています。超伝導転移温度(Tc)は、Bi系の中ではBi2223が最高で110 K以上と液体窒素の沸点77 Kをはるかに超える高いTcを持っています。

 さらに Bi系超伝導体は比較的容易にc 軸配向するため超伝導を担っているCuO2面がつながりやすく、高特性の超伝導線材の作製が容易です。 また、液体ヘリウムの沸点4.2 Kにおいては高磁場まで使えるのですが、77 Kといった高温では磁場があるとほとんど超伝導電流が流れないといった性質をもっています。 このため高温での応用としては電力ケーブル(アメリカのニューヨーク州で運転中)、船舶用のモーターといった磁場がかからないものに、低温ではリニアモーターカー、強磁場発生用のコイルなどに使われています。

Fig.1 Fig.2 Fig.3
Fig.. 1 Bi2223の結晶構造 Fig.. 2 金属組成制御および微量置換
によるBi2212単結晶のJcの改善
Fig.. 3 熱処理によるBi2223のTcの上昇

 応用範囲を広げていくためには高温高磁場下では臨界電流密度(Jc)が低下するという欠点を克服する必要があります。従来ではBiサイトにPbをドープすることによってJcの 向上が図られてきましたが、それだけではまだ十分ではありません。そこで私たちはCuサイトにFeやCo、Ni などを、Caサイトに希土類元素のYやLuを微量置換することでピンニングセンターを導入しJcの改善を行っています。 より正確な置換効果を得るために坩堝(るつぼ)材の混入などが無いFZ(Floating Zone)法によってBi2212単結晶を育成し、 Jcの改善を試みています。最近ではBi系超伝導体が不定比金属化合物であることに注目して 金属仕込組成を定比にしたBi2212を育成したところTcが向上しそれに伴いJcも改善することがわかりました。そこで金属組成を定比にしたうえで 微量置換したところ大幅にJcが改善することがわかりました(Fig. 2)。

 Bi2212と同様にBi2223においても金属組成を定比に近づけることが特性の改善につながると期待できます。そこで、金属仕込組成、熱処理温度、酸素分圧を様々に変えて、Bi2223の多結晶体を作製しています。その結果、従来110 KとされてきたTcが115 Kまで上昇することがわかりました(Fig. 3)。現在もさらに条件を突き詰めることで120 K以上のTcを目指して日夜努力しています。

 発見から20年が過ぎようとしている今日、Bi系超伝導体は超伝導ケーブルなど様々な分野で徐々に実用化されるようになってきました。私たちはさらなる新しい分野への実用化に向けて、Bi2212単結晶から本質的な物性を研究するとともに、それを生かしてBi2223の特性改善を進めています。

他の研究テーマも見る:
新物質グループ
ビスマス系グループ
RE123グループ
MgB2グループ
熱電変換材料グループ
Mn酸化物グループ
磁気科学グループ

≫岸尾研究室ホームページに戻る