MgB2(2ホウ化マグネシウム/ Magnesium diboride)は、2001年に青山学院大学で発見された金属系超伝導体で、とてもシンプルな結晶構造をしています。超伝導転移温度(Tc)は約40 K (-233℃)と、銅酸化物超伝導体と比べると低いのですが、金属系超伝導体の中では飛びぬけて高いTcです。このため現在実用化されている超伝導体と異なり、約20 Kの簡単な冷凍機冷却で使用でき、希少な液体ヘリウムを消費しません。また原料元素も地球上に豊富に存在し、毒性元素も含んでおらず、放射化されてもすぐに放射能が消失することから、MgB2は21世紀の環境調和型社会にふさわしいクリーンな超伝導体であると言えます。このほかにも、合成・加工のコストが低いこと、軽量であること、超伝導電流が減衰しにくいことなど、大きな工業的メリットがあります。
Fig. 1. MgB2の結晶構造 | Fig. 2. MgB2の結晶性と 不可逆磁場の関係 A. Yamamoto et al., Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 212502 |
Fig. 3. MgB2の平均粒径と 最大ピンニング力の関係 Y. Katsura et al., Physica C 460-462, Part 1 (2007) 572 |
Fig. 4. Premix-PICT拡散法MgB2の Jcの磁場依存性 I. Iwayama et al., Physica C 460-462, Part 1 (2007) 581 |
私達はこのMgB2を、医療用MRIやリニアモーターカー、核融合炉などの超伝導磁石として利用するための研究を行っています。具体的には、MgB2線材の臨界電流密度(Jc)を高めるための研究です。
私達がはじめに開発したのは、新たな多結晶MgB2バルクの合成手法(Powder-In-Closed-Tube: PICT法)です。この手法は密閉容器中でMgとBを反応させる手法で、簡便さと再現性の高さを兼ね備えています。この手法を生かし、MgB2のJcにとって何が本質的に寄与しているのか研究しております。
まず、MgB2のJcが合成温度を低くすることにより改善することを見出しました。また高磁場のJcが、さまざまな炭素源 (炭素, 炭酸塩, 炭化物, 有機物)のドープによって改善することを見出しました。特に炭化物の添加では、炭素の置換量のみがMgB2の超伝導特性に本質的なファクターであり、炭化物の種類による超伝導特性の違いは、原料の炭化物の反応性の違いに起因していることを明らかにしました。
さらに、これら低温合成と炭素ドープによるJcの改善が、「低い結晶性」というひとつの概念で説明できることを明らかにしました(Fig. 2)。これは当研究室が初めて提唱した概念であり、現在、この論文は世界各地の研究者によって引用されています。
ところで結晶性が低いということは、粒径が小さいことと、格子欠陥が多いことを示しています。このうち粒径の寄与を明らかにするため、さまざまな方法で粒径を変化させた試料を作製したところ、粒径が小さくなるほどJcが改善する傾向を見出しました(Fig. 3)。
このほか、微細組織観察から得られた知見を生かして、かねてから問題だった密度の低さを改善する手法(PICT拡散法, premix-PICT拡散法)を開発しました。この結果、20 K, 自己磁場下において120万A/cm2という記録的に高いJcが実現しました。この手法と炭素ドープを組み合わせることによって、20 K, 5 Tの高磁場でも1万A/cm2という、非常に高いJcを持つMgB2の作製にも成功しました。
発見から7年が過ぎ、MgB2のJcも年々改善してきましたが、実用化までにはまだいくつかの壁があるようです。どうしたらそこを打開できるか考え、理論・実験の双方から正確な検証を行いつづけることによって、MgB2の新しいJc特性改善指針を世界に向けて発信していくことが、私達の仕事であると考えています。
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