SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.5, Dec. 1996, Article 14
シンポジウム”超電導限流器”開催される
96年度低温工学協会第2回超電導応用研究会/第3回材料研究会合同シンポジウムが”超電導限流器”のテーマで9月13日電中研横須賀研究所において開催された。86名の参加者があり、活発なディスカッションが行われ、極めて盛会であった。各講演のポイントは次のとおりである。
- 「限流器の必要性と開発の歴史」 電中研 :深川裕正
電力系統の規模の拡大とともに短絡電流はますます大きくなり、遂には遮断器の遮断容量を超える恐れが生じる。この問題を解決する手段の1つとして限流器が存在する。この限流器に対するニーズは古く、これまでにさまざまな方式が考案、試作されてきた。しかし実用化されたものは少ない。その原因は信頼性の点で満足すべきものが開発されなかったことにあると考えられる。信頼性の高い機器の開発が重要である。
- 「超電導限流器の開発状況(SN転移型)」東電 :大熊 武
東電は将来的に最もニーズの高い500kV級基幹系統への適用を目指している。開発の第1段階として6.6kV/2kAのSN転移型モデル器を東芝と共同で開発中である。導体は直径0.285mmのCuNiマトリックスのNbTi極細多心線36本を2重に撚って構成している。この導体をGFRP製の円筒巻枠表面に設けられた溝に沿って無誘導巻きしている。すでに機能試験を行っており、高い限流特性を確認している。今後冷凍機と組み合わせて信頼性評価試験等を実施する予定である。さらに次の段階では高電圧化に取り組む予定であるが、ここでは絶縁設計が重要課題となる。
- 「超電導限流器の開発状況(磁気シールド型)」 電中研 :市川路晴
電中研では6.6kV/0.4kAの磁気シールド型モデル機を開発中である。このタイプの限流器は2次捲き線が短絡された変圧器と考えることができる。2次捲き線は超電導体、ここではMgOの円筒基板表面にBi2212を積層して構成している。1次捲き線は通常の銅線で構成されている。このように構成することによって通常運転時に低インピーダンスでかつ系統事故時に高インピーダンスとなる限流器が得られる。このタイプの限流器は極低温部に電流を出し入れする必要がないと言う長所を有する反面、漏れリアクタンスがSN転移型に比べて大きくなるという短所がある。
- 「超電導限流器用超電導材料の開発状況(限流器用超電導線材)」住友電工:湯村洋康
SN転移型限流器用超電導線材には低い交流損失、安定した交流クエンチ電流、高い常電導抵抗及び大きなクエンチ伝播速度が必須の特性として要求される。この要求を満たすため研究開発に努めてきた。そしてこの努力の一里塚としてCu-30%Niマトリックスにフィラメント(直径0.1mm)を約86万本埋め込んだ素線(直径0.214mm)を6*6本二重撚線した交流用NbTi超電導導体を開発した。この導体の交流クエンチ電流、交流損失及び常電導抵抗はそれぞれ2.3kA(Peak )、11kW/m3(0.5T, 50Hzの横磁界下)、0.21Ω/mである。今後より実用的な大容量導体の開発に向けて努力する。
- 「超電導限流器用超電導材料の開発状況(磁気シールド用円筒体)」 古河電工:今井久美子
磁気シールド型限流器用円筒体をBi2212高温超電導材料を用いて開発している。円筒体はMgOの円筒基盤にスラリー状のBi2212仮焼粉を吹き付けた後、熱処理して構成される。熱処理後の超電導膜の厚みは0.2mm〜0.3mmである。この円筒体が使用される際、熱歪みによる劣化と大気中の水分による劣化が問題となる。そこで本円筒体を室温と液体窒素温度の間で20回熱履歴を加えたが最大補足磁場には変化がなかった。また室温付近の水分暴露に対して臨界電流値は低下しないことを確認している。
- 「超電導限流器用冷却システム」 東芝 :矢沢 孝
東電と東芝が共同で開発しているSN転移型超電導限流器の6.6kVモデル器の冷却システムについて紹介している。4K冷凍機(GM/JTタイプ)と80K冷凍機を組み合わせて用い、閉サイクルの冷却システムを構成している。4K冷凍機と80K冷凍機の冷凍能力はそれぞれ5Wと150Wである。
- 「電力用限流器の可能性評価と試験法」東電 :本庄 昇一
超電導限流器が実際に導入される系統は500kV級の高電圧基幹系統である。一方、特性評価のために製作されるモデル器は一般に低電圧である。そこでモデル器の縮小回路設計に当たり、実系統条件の縮小回路への反映が必要である。ここでは実系統と縮小回路の電気的諸量のpu値を同一に設定することで両者の等価性を持たせる方法を提案している。
以上の講演に関連して、4氏が下記のコメントを寄せた。
- 成蹊大・石郷岡猛:
通常の電力機器の電圧協調を実現するキーデバイスが避雷器であるように、超電導限流器は超電導電力機器にとって不可欠な電流協調を実現するキーデバイスとして重要である。ただ超電導限流器が電力システムの中で期待される責務を果たすためには、それがあらかじめ設計された電流値できちんと動作する必要がある。
- 東大・仁田旦三:
電力系統内に設置される限流器の動作電流値にたいしてどの程度の誤差が許容できるかを検討した結果、動作電流にはかなりの精度が要求されることがわかった。設計値どうりに働かないと電力系統がうまく機能しない。
- 関電・中川興史:
関電は系統の短絡電流が遮断器の容量をオーバーしそうになる事態を既に過去2回経験しており、現在も3回目としてこの事態に直面している。過去2回の事態には系統の高電圧化(275kV-->500kV)と系統構成の変更(開閉所の新設)で対応してきた。今回の3回目の事態には遮断器の容量向上(50kA-->63kA)で対応する予定である。電力需要が伸びて行く限り今後も周期的にこのような事態に直面することとなろう。限流器もこのような事態に対処する方策の一つとして期待している。
( Winter)
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