SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.5, Dec. 1996, Article 12

ジョセフソンプラズマ 〜 最近の展開

 筑波大学の門脇和男助教授らは最近、高周波領域(特にマイクロ波領域)における新しい電磁波共鳴現象を高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+d系において観測し、大きな話題を呼んでいる。その発端はPrinston大学のOpheriaらによる単結晶Bi2Sr2CaCu2O8+dの磁場中での表面インピーダンス測定の過程で、マイクロ波の強い吸収が観測されたことによる。その後、吸収の起源が超伝導層間結合がジョセフソン的であることによるジョセフソンプラズマと判明し、高温超伝導状態の理解に極めて重要な意味をもつ現象であることがあきらかになってきた。
 高温超伝導体は層状構造を持つことから、超伝導状態が異方的であり、層間がジョセフソン的結合状態にあると言われてきた。その検証は基本的には I - V 特性を測定することでなされてきたが、大電流を試料に流すため、発熱の問題等も指摘され、必ずしも確定的とは言えなかった。
この点に関してジョセフソンプラズマ現象は超伝導層間の超伝導体秩序パラメーターの位相差を直接検出するため、ジョセフソン結合の存在を検証する最も直接的な実験事実である。さらに磁場中では磁束線が超伝導層を貫き、Bi 系などの異方性の強い物質においては磁束のパンケーキが生じていると考えられるが、このパンケーキ間の相関を直接観測することができるため新しい磁束状態の研究手段となっている。現在までのところ異方性の強さを制御した試料や柱状欠陥などを導入した単結晶において詳細な実験がなされており、従来の実験手段から得られる情報と合わせて、ジョセフソンプラズマ現象を統一的に調べることで高温超伝導体の特異な磁束状態の理解が大きく進展することと思われる。
 一方ジョセフソンプラズマ現象を利用した新しいデバイスとしての応用も考えられている。とりわけ高周波領域での吸収線幅が極めて狭く、例えば95GHz帯で約20G〜30G、Q値で約104〜105と推定され、磁場により制御するチューナブルな電磁フィルターなどとしての応用が有望視されている。
 ジョセフソンプラズマ現象には超伝導の本質に関わるもう一つの重要な側面があることがごく最近明らかになりつつある。ジョセフソンプラズマには横波と縦波の二種類あり、実験的には選別可能である。横波は超伝導体内を伝播する通常の電磁波と同類である。一方、縦波は超伝導層固有の素励起であり、南部 - Goldstone モードである。従来この励起は長距離クローン相互作用のため〜eV 程度のギャップを生じ、これが超伝導ギャップ〜meVよりはるかに大きいことから観測されないと考えられていた。高温超伝導体ではギャップが20〜30meVと大きく、かつ層間結合が100〜1000倍も弱いことから、この励起を直接観測できる。縦波だけを誘起する実験条件 E//c を実現するため、空筒共振器を用い(TE102 モード)、横波だけを分離した。観測された吸収の線形を最近の立木らの理論と比較することで門脇らは縦波であると結論した。
 東北大学電気通信研究所・山下努教授は「門脇助教授らはビスマス系高温超伝導体のキャリヤーを制御して数GHz帯の吸収ピークをみつけている。現在、移動体通信等に有望視されている超伝導フィルターは薄膜をつかっているが、バルク・フィルターが実現するかもしれない」と語っている。

(青葉山)


[前の号へ |前の記事へ |目次へ |次の記事へ |次の号へ ]