SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.5, Dec. 1996, Article 7

科学技術庁政策担当者 ”超伝導技術への期待”を語る

 科学技術庁科学・技術政策担当の2氏はさる9月13日、NSMF(未踏科学技術協会新超電導材料研究会/科学技術庁)シンポジウムの席上、超伝導技術への期待を次のように語った。
◇ライフサイエンスにおける超伝導応用への期待
 ここ数年ライフサイエンス科学技術政策を推進してきた藤木完治ライフサイエンス課長は、その立場から、基礎的・先導的ライフサイエンス科学技術の意義を強調した。とくに、超伝導技術と関係の深いライフサイエンス分野として脳科学研究と構造生物学を挙げた。  脳は多くの可能性を秘めている21世紀に残された数少ないフロンティアであり、1)人間の心の解明 2)脳.精神疾患の予防、治療 3)新たな原理による新技術・産業の創出という3領域(図1)の研究を推進中である。5〜20年の長期計画の下で、脳科学総合研究所(理化学研)を中心とする各研究機関の協同による目標達成型の研究推進が必要である。脳の観察にはMRI、機能 MRI、MEG(脳磁図)装置が不可欠であり、これら機器の性能向上に超伝導技術の活用が期待される。
 構造生物学分野については、タンパク質等の生体高分子の構造と機能の解明が21世紀初頭に向けての重要課題である。生体には10万種類以上のタンパク質があり、異なる生体構造を通して生命に不可欠な機能を発揮している。この多様な構造を1000種類程度の基本構造の組み合わせとして解明する研究を推進している。この研究においての高磁場(1GHz級 )NMR装置に期待するところは大きい。
 研究体制面についていえば、上記の両分野ともに日本の研究者数、研究費、研究規模はいずれもアメリカの約10分の1であり、今後積極的に強化を図りたい。平成9年度の脳科学関係概算要求額は、151.6億円と対8年度比114億円増を見込んでおり、理化学研究所、放射線医学総合研究所(科技庁)、電子技術総合研究所(通産省)、通信総合研究所(郵政省)等へ重点配分する予定である。構造生物学関連概算要求額は、対8年度比15.9億円増の18.3億円であり、理化学研(16.3億円)と金材研(2億円)に分配される、という頼もしい話であった。
◇21世紀の材料研究開発に期待すること
 日頃から積極的に材料開発を推進している井元良材料開発推進室長は、材料開発の未来についてスケールの雄大なビジョンを語った。  21世紀にむけた材料研究開発は、次世紀の社会基盤実現の可否を握るジェネリック・テクノロジー(独創的かつ画期的な基盤技術)であるのが望ましく、次の3つの社会的要請に答えるものでなければならない。 1)科学技術の発展による豊かな社会実現の要請:ライフサイエンスと超伝導材料(NMR、MRI、SUIDなど)、情報通信とスーパーダイヤモンドなどの新型半導体、経済社会フロンティアを拡大する新型構造材料、原子力・海洋・宇宙システムを支える各種特殊材料など 2)高度成長期のインフラ更新と高齢化社会到来への対応:安全で快適な諸インフラを支える新型構造材料、地球にやさしい環境調和型材料、高度な医療を支える生体親和材料など 3)持続可能な発展を保障する社会実現の要請:環境負荷低減材料、リサイクラブル材料、省エネルギー、新エネルギー支援材料など
 金材研、無機材研を中心に、95年度より第2期マルチコアプロジェクトを展開中であり、その目標の一つがタンパク質の構造解析に資する1GHz級NMR超伝導マグネットの開発である。平成9年度は、2億円をその予算として要求している。また、インフラの老朽化に対処するために従来の鉄鋼の2倍の強度と寿命を持つ超鉄鋼を10年間約1000億円をかけて研究開発する「新世紀構造材料」プロジェクトも初年度27億円を要求している。その他、スーパーダイヤモンド、インテリジェント材料、生体・環境親和材料など多面的な物質・材料系研究を推進中であると科技庁施策を紹介した。  最後に、1)全体として分析・解析と材料創製のバランスが大切、2)先端的な技術シーズの深化と実ニーズとの有機的な連携も重要 3)部門・機関・セクター間を巡る大きなスパイラル ・ダイナミズムを意識すべし、と材料研究者に対して注文していた。 

図1 脳科学研究の新展開

図2 材料開発のスパイラル・ダイナミズム

(こゆるぎ)


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