SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.5, Dec. 1996, Article 6

ISTEC フェーズ II 計画を工技院に提出

 1988年に発足した超電導材料・超電導素子プロジェクトは1998年に当初予定の10年が経過する。この度、次のフェーズに向けて、実用化をスコープに入れた材料の基礎・基盤技術をさらに発展させるべく、第IIフェーズの提案を行った。
 第I フェーズでの国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)の活動は、我が国のみならず世界のCOE(Center of Excellence)としての役割を果たした。また付設の超電導工学研究所(SRL)では、バルク材作製技術、液相エピタキシャル(LPE)法などによる線材加工技術、さらに高温超電導体のデバイス応用の基盤加工技術として、Y系およびNd 系大型単結晶高速育成技術や接合技術等を開発してきた。
 提案書では、これらの成果が我が国の技術ポテンシャルを世界のトップクラスに押し上げ、液体窒素温度で実用可能な超電導材料とその作製・加工技術の応用分野への適合性を判断する段階に到達させたとしている。しかしながら、高温超電導材料の実用化のためには、高い臨界電流密度、臨界磁界の他、安定性、信頼性の高い材料とその作製技術が必要で、しかも応用面からのニーズに対応して、材料特性を制御可能な技術として確立していくことが必要不可欠である。
 そこで第 IIフェーズでは、上記技術の確立と、応用製品への適性を評価し、材料研究にフィードバックする実証研究も重要な研究課題となり、産業界との連携をさらに密にすることも重要であるとしている。技術戦略として、第 I フェーズでは実用化に適した高温超電導材料を絞り込み、その作製・加工のための基礎技術を開発したと考えているので、第IIフェーズでは想定した代表的な実用化モデルに適応させるべく超電導特性を更に向上させ、大型化、機械強度、耐久性等の機能を付加する実用材料化への基盤確立を行う。具体的には、理論的に未解明の現象を持つ高温超電導体の物性解明や評価技術等の基礎研究から、粒界制御、ピン止め中心制御、基板作製、単結晶育成や多元系化合物組成制御等の幅広い材料作製上の要素技術開発やその他多くの探索的技術開発を含んでいるので、各分野の第一人者研究員を結集でき、かつ資源が極めて有効に使える集中研究方式を、第 Iフェーズと同様採用する。第 2 の技術戦略は、将来実現可能と予測される応用システムの想定から必要材料の諸元を求め、それに従って材料開発の方向と目標を設定していき、材料の実用化を加速させるという戦略を明確にしている。第 3 の戦略は、応用研究の積極的展開を指向するために、国研および企業との応用共同研究を企画推進し、超電導材料の提供と、応用からフィードバックされる評価を、材料および技術の実用化に反映させていくというもの。
 上記の様に、第 I フェーズに比べて応用分野を視野に入れた技術戦略を打ち出している。SRLと国研、企業とがどのような分担で開発を進めていくかが成否のキーとなると考えられる。企業では、実用化はまだまだ先との見方から、さらには超低成長時代を背景に、この種の開発には十分なリソースを提供できないのが実状である。
 提案書では、国が実施する必要性として、長期的・基盤的な研究開発であるとともに、産業技術の幅広い領域にわたる挑戦的な研究開発課題であり、21 世紀の我が国の産業育成、国際競争力の維持、産業構造変革等の観点から極めて重要な研究開発テーマであると述べている。
 以上が工技院への提案の骨子である。実際、各応用について、それに必要な材料への要求等についても記述されている。ISTEC やSRL だけが我が国の超電導開発を支えているわけではないが、企業の置かれている経営環境を考えれば、企業努力だけで実用化を加速することは困難であることは言を待たない。また、大学や国研が実用化研究を行うことがあるとしても自ずと制約があろう。
 米国では、ASC のようなベンチャー企業がSPI プログラムなどのDOE からの資金を活用して、積極的に応用展開を図ろうとしている。事実、米国における超電導応用開発は成否の議論は時期尚早ではあるが、技術力の向上、開発の活性化など今のところ成功しているように思える。一方、欧州では、国からの資金はそこそこあるものの、中心となって開発を牽引していくところが見当たらないため、開発が低調のように見える。欧州の各研究機関が日本の開発に大いに期待していることからも、我が国にCOEの存在が必須である。各企業から優秀な研究者を派遣することは、企業にとっては容易ではないが、我が国が先進技術で世界を先導していくまたとない機会であるという意味からもISTEC/SRL の存続が必要であるように思える。

(トーテツ)


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