SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.5, Dec. 1996, Article 5

"低磁界 MRI の可能性と展開 " レオン ・カウフマン博士講演

 9月12日、96年度「新磁界工学展開の可能性検討」調査研究会(低温工学協会)において、カリフォルニア大サンフランシスコ校 名誉教授のレオン・カウフマン博士(現在は東芝アメリカ MRI 社研究所長)が「低磁界MRIの可能性と展開」と題して講演を行った。博士は、MRI 誕生に大きな業績を残し、永久磁石を用いた低磁場MRI “ACCESS ”の開発に携わってきた方である。
 講演では、この“ACCESS ”と冷凍機を用いた次世代の装置“OPAL ”(図)の紹介、酸化物超電導体を採用するMRI システムの可能性について述べた。“ACCESS ”は、Nd−B永久磁石を上下に配し、640 ガウスの磁界でオペレートする全解放の装置である。これは、低コスト、装置の容易さ、患者の快適さ、良好な操作性などの特徴を有しており、手術中に使用が可能であるなどのメリットもある。磁界の低さによって生じる画像の不鮮明さは、ソフトの改良によって補っている。現在、NbTi超電導マグネットを冷凍機を用いて5〜6Kに冷却して使用するタイプの“OPAL ”を開発中である。これは3500ガウスの磁界でイメージングを行うため、良好な画像と高速イメージングが実現できるという。
 更に、博士はこの“OPAL ”のコンセプトを基に、酸化物超電導の応用の可能性を提案した。酸化物t超電導体のMRI への応用は4つの可能性がある(そのうちの3つを表1に示す)。マグネットに関しては、高温超電導体が20Kで使用できることから、冷却コストの低減に繋がり、最も有望な用途である。しかし、“OPAL ”のコンセプトから考えると、10,000ATの起磁力が必要であり、操作電流100Aとして約10kmの線材長を必要とする。博士は、この点に関して非常にポジティブな考え方をしており、コストが問題ではあるが、性能的には現在の線材で十分であり今後7 年以内に実現できるのではないかと語った。
 Gradient coil に関しては、現在のシリンダータイプの高磁界用 MRI マグネットに応用可能であり、金属系超電導マグネットの内側(40K 空間)に入れて使用することで空間的にメリットが出せる。RF コイルは、博士の研究所で既にテストを行っており、実用が可能であることを実証している。これは、東芝アメリカMRI−東芝−昭和電線電纜の共同研究で、Bi 系の厚膜を用いて脊椎の撮影に成功したもので、S/N比が数倍に向上しており、通常の銅製のRF コイルを用いた場合より鮮明な画像が得られた。この実用化に対する問題点は、酸化物超電導体ではなく、冷却用のクライオスタットにあるとした見解を述べた。この他には、磁界スタビライザー(外部からのノイズによって起こる空間磁界の乱れによって引き起こされるMRI信号の乱れをシールドするためのコイル)が考えられ、実現の可能性が非常に高いとのことであった。講演全体を通した博士の見解は、MRI を考える限り、現在の酸化物超電導体の性能は十分であるのに、これが使えない理由は冷却、デザイン等の別なところにあるということであった。

表 HIGH TC WIRE NEEDS

図 OPAL

(TH)


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