SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.4, Oct. 1996, Article 13

1996応用超電導会議から

  • 概況(東海大学・太刀川恭治)
     応用超電導会議(Applied Superconductivity Conference, 略称 ASC)は、1967年予備的な会議が開かれ、以後1970年から隔年に開催されて、超電導の応用及び材料分野の世界の進歩の牽引車的役割を果たしてきた。今回はピッツバーグ会議センターで、8月26日から30日まで5日間開かれ、全登録者はちょうど1500名(うち、米国788名、日本201名、ドイツ141名、英国94名等)で盛会となった。会議はこれまでどおり、Electronics(E)、 Large Scale(L)、及びMaterials(M)の3分野に大別されて研究発表が行われた。当初、E500 件L300 件、M400件の発表を予定していたが、Eが少しオーバーし、L、M は予定どおりで、合計1200件あまりとなった。なお、Plenary Talkが7件あり、また、企業を中心とした展示が52ブースあった。
     E分野では、Digital 応用が緒につくとともに、Filter 等のMicrowave応用、SQUIDの各種応用範囲が拡がり、活況をみせた。L分野では加速器、核融合等は別として、電力応用を中心にHTSモデル機の開発が推進され、これにともないM分野でも、HTS 導体開発やAC 特性の発表が多くみられた。初期には我が国でいち早く導体開発が進められたが、現在は米国がHTS機器の”もの作り”を強力に進めている。また ECも、HTS導体の交流応用共同研究プロジェクトがあり、HTS応用もいよいよ緒についた感をうけた。しかし、実用導体にはもう一段のブレークスルーが必要であり、我が国では着実で裾野の広い研究姿勢が大切と思われる。
     今回のASCの特徴として、HTS発見10周年ということで、記念の基調講演セッションが設けられた。Prof. C.W. Chu からHTS発見の経緯について興味ある話があり、また、Hg 系テープ材や新材料についてふれられた。Prof. D. C. Larbalestier はHTS 導体研究の世界の現状をのべ、とくに同教授のMagneto-optics法による導体組織の研究にふれた。Prof. Van Duzer は各分野へのデバイス応用の現状について、また、Dr. P. Grandt は経済面からみたHTSの電力応用について講演された。ポスター発表は夜9時まであったが、その後11時まで、HTS Coated Conductors とHTS Josephson Junctions の2つのramp session が開かれ、ともに盛況であった。前者では、とくに2軸結晶配向テープについて熱心な討論がなされた。また、初めて”招待ポスター発表”が指定され、通常の2倍の発表面積が割り当てられた。
     今回のピッツバーグ会議場は十分な面積があり、ホテルも隣接しており、便利で円滑に会議が運営された。以下の項で、各分野でのトピックスが紹介されると思うが、ASC は以前に比べて発表件数が倍増し、ポスターでも興味ある発表をじっくり聞いて回るのに長時間を要する状況にある。次回のASCはさきに決められたように、1998年9月13-18日、カリフォルニア州Palm Springs の近くで開かれる。組織委員会では2000年の開催について議論され、Houston で開くことになったが、時期については再検討することになった。以上、今回のASCの概況をのべたが、今後この分野における、我が国の一層の発展を期待したい。

  • (E)エレクトロニクス素子および薄膜材料(超・正常)
     デジタル応用:単一磁束量子(SQF)回路で多くの発表があった。ハイプレスがファンダリとして、再現性に優れるジョセフソン接合をNb系で作製し、販売しているため、回路研究者が実際にデバイスを手に入れることができ、研究活性化に役立っていると感じた。シミュレーションだけでなく、テスト法、高周波実装法、動作結果が報告されていた。高速のプロセッサーあるいは通信用の装置を作り、アイパターンによるエラーレートの評価まで行っていた。高Tcでは接合特性再現性あるいは液体窒素温度動作等の問題が指摘されている割には、小規模ではあるが、少なくはない報告がなされていた。このほか、新動作原理の回路(Complementary Output Switching Logic)、半導体とのハイブリッド化等、米欧の活躍が目だった一方、日本からは発表件数が少ないと感じた。
     ジョセフソン接合:接合を回路に応用する場合には、特性の制御性、特に臨界電流値の拡がりが回路設計上動作マージンとして集積規模を決定する重要なパラメータとなる。しかしジョセフソン接合はトンネル現象であることから本来的に障壁層に敏感にIcは依存し、しかもその空間スケールは原子オーダーであり、接合作製には高度な技術が必要になる。そこで結晶粒界を用いる接合では不十分な特性しか得られていなかった。
     今回酸化物超電導体を用いた接合で作製法の改善を米国海軍研究所を中心にConductus, TRW, Northrup-Grummanの超電導素子ビッグ3が共同で進めた結果が述べられた。接合は現状で一番再現性に実績があるランプエッジ型で、バリア層としてはCo添加YBCO(7.5mm厚)を使用している。YBCOとの格子整合性が良いことから選択されたものである。ランプの角度依存性を調べ、15〜18°でIcの分散(σ)が14%となる特性を得ている。なお、IcRnでは13%、RnAでは10%の値が得られている。緩い角度のため、堆積に問題がなくなったことが改善の原因と考えられる。なお、スーパークリンルーム、サブミクロンのアライメントのプロセスラインも投入されたとのことである。また、これらの再現性特性はSQUIDの低インダクタンス化(数pH)が図れるグランドプレーンをもつ構造でも得られている。
     Icのσが10%を切るレベルになったので、今後1年以内に100個程度の接合からなる単一磁束量子を用いる回路(SFQ)を65Kで動かすことを計画している。人員、装置、資金、時間の限られた範囲で成果をだすため、電極パターンの共通化、接合作製法に関する情報の公開が3社間で進められたとのことである。他の研究機関へもこのグループの参加を求めており、その場合これらの情報は開示されるとのことである。
     そのほか、接合作製法では粒子線を用いた方法で良い結果が得られていた。電子線では10%のσを実現していた。イオンビームを用いたものも新しい試みが提案されていた。このように酸化物超電導体接合で問題であった再現性に解決の目処がつき、新しい技術開発段階に達したと考えている。これに関連し、他の接合構造についても討論する場が急遽講演終了後、設けられた。なお、接合の質を評価するパラメータであるIcRn は2mV(77K)、20mV( 20K)が報告されていた。
     SQUID: 走査型顕微鏡と磁気シールドなしでの測定法(グラディオメータ)の開発が進められている。雑音特性より最小検出レベルとして1pT /Hz1/2(>1Hz)が得られている。SQUIDと試料の距離を近付けるため半導体プロセス技術(マイクロマシン)が用いられていた。非破壊検査等への応用については、Conductus社製のSQUIDを各種分野に用いた結果が報告されていた。
     3端子素子:磁束フロー増幅器の発表がめだった。利得を得ていること、新しい構造が提案されていることに加え、同じ磁束量子を使うSFQ回路との組み合わせが期待できるのではないか。
     高周波応用:フィルターについては、移動体通信の受信用ではベンチャー企業と通信業者が共同でフィールド試験を行う段階に入っている。大パワーが要求される送信用については、高周波電流縁端集中が避けられる円盤形状により100W級の作製を報告していた。しかもこの限界は超電導部分ではなくコネクタで決められていた。接合を用いるミキサーでは光技術を活用するテラヘルツの計測技術の研究者が増えた。ミキサー以外のアクティブ素子ではフェーズシフター等の試みがあった。
  • 薄膜:SFQ回路の実現あるいはSQUIDの高性能化をはかるには多層構造が要素技術となる。超電導体としてはYBCOを、層間絶縁層としてはSr2AlTaO6を選び薄膜堆積法も含め、作製条件を精査した報告があった。なお、YBCOに代わり、安定性あるいは表面平坦性に優れるNBCO薄膜作製および素子への応用の報告があった。
     高温超電導発見10周年であることから、TRWの Silver が素子応用の10年間を回顧しながら、基調講演を行った。信頼性がない、応用が見えない等から消えかかっていた超電導素子研究が、高Tc により引き起こされた応用分野の大きなインパクトにより拡大した経緯が紹介された。冷却装置は必要であるが、超電導実験室レベルから離陸させた効果は大きい。今後、テスト法、CAD、ファンダリ、パッケージ、冷却法、市場の要求、協力が重要になると強調していた。米欧とも実用化の試みが着実に進んでいると感じた。次回は2年後の9月にパームスプリングで開かれるとのことである。さらにどのような進展があるのか楽しみである。

  • (L) Large Scale関連発表(九州大学・船木和夫)
    LargeScale 関連の主な発表をセッション数で分類すると、大型プロジェクト関連では、核融合関連:2、加速器関連:3(1)、SMES:1などで比較的加速器関連の発表に比重が高かった。その他の応用としては、高磁界マグネット:1、HTSマグネット・バルク等:3(1)、ケーブル・電流リード:2(1)、モータ・発電機:2(1)、変圧器・限流器:3(1)などである。()内はオーラルセッション。さらに導体特性:2、安定性・クエンチ:3、交流損失:2など、応用を支える要素的研究についても幅広い流れがみられた。これらのLarge Scale関連分野の全領域を網羅することは、筆者の能力をはるかに越えるので、ここでは筆者の研究領域に比較的近い応用分野であるモータ・発電機および変圧器・限流器のセッションを中心に電力機器関連研究の紹介にとどめる。
    電力機器応用を目指した研究発表の件数を表に示した。この中では発表件数からいうと、限流器とSMESに関する研究の活発さがうかがえる。特に限流器関連研究における酸化物超電導体の応用研究の件数は群を抜いている。
     限流器は構造によって誘導型と非誘導型に分けられていた。前者は超電導コイルを含むコイル系の結合状態の変化を利用して過電流の抑制を図り、後者は超電導素子(薄膜、溶融体等)の S/N 転移を直接利用するものであった。誘導型の一例として、DOE-SPIプロジェクトのphase-I モデル(2.4kV/2.2kA)の試験結果が報告されていた。
     この場合、限流器は冷凍機冷却のBi-2223DCコイルとスイッチング回路から構成されている。発表では、このphase-I の試験で設計条件はほぼ達成されたこと、phase-IIとして17kV, 20 kAの次期モデル器を1998年までに製作し、試験する計画であること、などが報告された。 また、金属系限流器の代表的プロトタイプとして、高電圧40kV器がアルストムグループ(フランス)から発表される予定であったが、すでにCryogenics誌(Vol.36, No.7)に結果が掲載されているために割愛された。
    なお、このシステムも1998年に63kVラインに試験的に導入される予定である。この他にもVPTl-Hydro Quebec とSiemensのグループ、イギリス、スロバキア、オーストラリア、韓国のグループ、また、日本からも成蹊大、電中研、名古屋大のグループなど、各国から、2次側短絡の変圧器型や過飽和リアクトル型、新しいアイデアの提案も含めて幅広い内容の発表があった。一方、非誘導型の限流器については、素子特性の解析や、評価に重点をおいた発表が多かった。その中では、SiemensからのYBCO薄膜による750VA器の発表が目を引いた。100kVAのスイッチング電力に対応する次期装置の計画も紹介された。
     モータについても酸化物超電導体利用したモデル器の試作、特性評価の報告が主流であった。この場合、米国海軍NSWC の167HP(4.2K)/122HP(28K)単極機、DOE-SPIプロジェクトの125HP(30K)空心同期機や、125HP(27K)四極機界磁コイルなど、Bi-2223銀シース線を20-30Kで利用する方式がとられていた。日本からも、30kVA機(NbTi多心線、佐賀大)の試験結果や円筒型リニア誘導機(NbTi多心線/Bi-2223 銀シース線、早稲田大)の試験結果についての報告があった。
     発電機では Super-GM の70MWモデル機について話題が集まった。11年間のニューサンシャインプログラムの9年目に当たって、これまでの経緯や3つのタイプの70MWモデル機の製作状況、各タイプのロータなどの工場試験結果、来年の最初のモデル機試験の準備状況、などの報告があった。日本からは、また、系統投入試験が実施された100kVA高速応機Hesper-I(東大/京大)について、界磁巻線の特性評価、無負荷時高速応答試験、ダンパの効果など、解析結果も含めて報告があった。さらに概念設計として500MW(50kV/10kA)の直流単極機(成蹊大)についての発表があった。一方、米国からは、Bi-2223 銀シース線による発電機用レーストラックコイル(20K,35kAターン)(GE)やBi-2223による単極機(IGC)などの試験結果が報告されていた。
     変圧器関連研究としては、800kVA HTS変圧器(九大グループ)の評価試験結果の報告があった。この変圧器の巻線には初めてBi-2223銀シース線の並行導体が採用され、低損失化のため、転位が施されている。また、将来の高電圧化、不燃化などに向けて66K過冷却窒素による冷却方式がとられている。巻線の交流損失などの測定からHTS器の効率の評価が行われていた。米国のグループ(IGCなど)からは、HTS変圧器の効用やフルスケール30MVA級器に向けての開発スケジュールなどについての報告があった。さらに無鉄心変圧器のメリットについてシステム評価をした概念設計研究(埼玉大グループ)や無鉄心変圧器に分路リアクトルとしての機能を付加したときの安定性の検討(東工大)も話題であった。
     以上、セッションの領域は限られているが、超電導電力機器に関連する研究を紹介した。今回のこの領域の研究のキーワードはやはり、酸化物超電導であろう。特に、米国の酸化物超電導応用に対するプロジェクト研究の体制が一歩進んでいるとの感想を持ったのは、筆者だけdeはないように思われる。

  • (M)酸化物線材関連 (KHK)  全体としては、線材そのものの研究とともに、それを用いた超伝導機器の発表が多くあった。特にアメリカからはDOEのプロジェクトの関係からか、応用に関する発表が数多くあり、この方面におけるアメリカの非常にアクティブな態度が印象に残った。線材はほとんどがAmerican Superconductor Coop.(ASC)やIntermagnetics General Coop.(IGC)から供給を受けたもので、関係者の話によるとASCやIGCは現在フル操業で線材を作製しているとのことである。線材関連の発表内訳を見ると、Bi-2223が約60で最も多く、Bi-2212が約40件、Y-123厚膜関連が約25件(ランプセッションを含む)、Tl-系が13件、水銀系が2件であった。また、Y(rare-earth)-123バルク材の発表も多く30件ほどあった。以下に印象に残った発表について報告するが、全体の発表件数が非常に多く、またパラレルで発表があったものもあり、必ずしも全体を網羅したものでないことをお断りしておきたい。
     まずBi-2223では、ASCはロール圧延した銀シース多芯線材テープについて発表し、短尺テープでJc=54,600A/cm2 (77K, ゼロ磁界、Je=15,000A/cm2、Ic=125A)の値を出し、ロール圧延テープのJc 記録を更新したとし、Jc 値が着実に向上していることを強調した。ただし、長さとともにJc は低下し、〜500mでは20,000A/cm2 に、また1,200mでは17,700A/cm2となる。Jc の更なる向上には、配向性の改善とともにBi-2212不純物の低下が重要であると述べた。また50mの送電ケーブルを試作し、3,300Aの通電試験に成功したと述べた。
     プロセスや特性に関連した研究では、ガス放出による膨らみの問題、Bi-2212相の配向化の問題、ホットロールやホットプレスの効果、透過電顕による組織観察、銀シースの合金化による機械的強度の改善、応力効果など、バラエティーに富んだ多くの発表がなされたが、VPTI Hydro-Quebecのグループはソーセージングの問題を取り上げ、テープの圧延工程を解析し、またそれに基づいてテープを作製した。ソーセージングは圧延による酸化物コアの硬化が原因であるとし、均一で微細なBi-2223フィラメントを作製するには、圧延ロール径を小さくし(径:2cm)、また圧延1パスあたりの断面減少率を小さくすることが有効であると述べた。ウィスコンシン大のグループは、銀シースBi-2223テープにおいて、最初に存在しているBi-2212相の配向性とそれがBi-2223の配向に与える影響を調べた。テープ加工工程におけるBi-2212の配向化が重要であるとし、Bi-2212の配向性が良好なほど、その後形成されるBi2223の配向も良好であり、さらに、圧延後の熱処理によって形成されるBi-2223の配向度は、それ以前に存在していたBi-2212の配向度よりも良好になるとしている。
    ピン止め関係では照射効果の発表が多くあったが、ロスアラモス国立研のグループは、銀シースBi-2223において、高エネルギーのプロトン照射によるBiやPbの核分裂を利用してランダムな方位を持った円柱状の欠陥を導入し、Jc特性を調べた。導入した欠陥の間隔が1Tにおける磁束線の間隔に相当する照射量で、60K以上の温度においてJc(抵抗法)に大幅な向上が見られたとしている。1.5Tに相当する照射量でJc の劣化が始まり、これは粒界がダメージを受けることによるが、400℃のアニールで粒界は元の状態に回復する(円柱状欠陥はそのまま)と述べた。同様な発表をジュネーブ大のグループも行い、照射によるJc の向上とJc の磁界方位依存性が小さくなることを述べた。
    この他ピン止め関係では、ケンタッキー大のグループが、イオン照射した酸化物のピン止め効果をシュミレーションする目的で、リソグラフィーによって規則正しく配列した欠陥(穴)を有するPb/Ge多層膜を作製し、ピン止め力を測定した結果を報告した。欠陥の間隔と磁束線の間隔がマッチングするとJcが大幅に上昇するという非常にきれいなデータを示し、注目された。
     Bi-2212についは、まずIGCが表面コート法で450-500mのテープを試作した。ただし、熱処理法については明らかにしなかった。Bi-2212はBi-2223と比較して高温領域でのJc は劣るが、試算の結果、銀シース法によるBi-2223よりもコストが1/3〜1/5で済むとしている。さらにこれらのテープを用いて種々のコイルを試作した。Bi-2212コイルの上下をBi-2223コイルでサンドイッチにした複合コイルで4.2T(4.2K、自己磁界)を発生し、酸化物コイル自身による発生磁界としては最高であるとしている。また、単極モータ用のコイル(外形245m、内径194mm)や高磁界NMRインサートコイルを試作し、1MVA超伝導トランスも製作中であると述べた。
    ケンブリッジ大のグループは、Bi-2212粉末を含むスラリーにMgO繊維を分散させたものを厚膜状にして溶融熱処理することにより、c軸配向したBi-2212層を作製した。MgO繊維は膜に平行に分散しており、Bi-2212はMgOに沿って析出−成長するのでかなり厚い酸化物層であっても良い配向性が得られるとしている。Jcは77Kで1,000-3,500A/cm2、10K以下では105A/cm2以上。すでに線材だけでなく、板状のものや円筒状のものなども試作している。用途としては、かなり厚い層が得られるので、コイルだけでなく、電流リードや限流器、磁気シールド体など種々のものが考えられるとしている。
    この他、Bi-2212では、温度勾配を有する長い管状炉中に線材を通過させる方法や、温度の代わりに酸素分圧を制御する等温熱処理法、高圧酸素熱処理法、丸い断面形状した線材における配向化など、熱処理方法に関する発表が多くあった。
    また、シンシナチ大のD. Shiは、Bi-2234(仕込み組成)を溶融−急冷してアモルファスとした後、アニールを行ってBi-2212に結晶化させると、余分な不純物がBi-二重層間に微細に析出し、これによって格子が歪んでBi-二重層間のカップリングが改善されて3次元性が増し、Jc ならびに不可逆磁界がかなり上昇すると発表した。本当であれば画期的な成果であろう。
    最近話題の2 軸配向Y-123厚膜では、ランプセッションが設定され、午後9 時からという遅い時間帯にもかかわらず多くの出席者があり、活発な討論が展開された。オークリッジ国立研(RABiTS)、ロスアラモス国立研(IBAD)、ゲッチンゲン大(IBAD)、MIT(IBAD)、住友電工、IGCなど十件程度の発表があった。いずれも短尺テープでは10万〜70万A/cm2と高いJcを示し(77K、ゼロ磁界)、またIcも〜200Aと実用レベルに近づきつつあり、大いに期待が持たれる。今後は、最初のDOEからの講演にもあったように、いかに生成速度を上げて長尺化(コストの問題も含めて)を達成するかが成否の分かれ目であろう。
    Tl系についても銀シーステープや銀基板上での配向厚膜の発表がかなりあった。IGCは銀シース法による数メートル長のテープを作製し、多芯線で12,000A/cm2 、単芯線で20,000A/cm2のJc(いずれも77K、ゼロ磁界)を得ているが、依然としてウィークリンクが存在し、Jc を飛躍的に上昇させるまでには至っていない。一方、オークリッジ国立研では平滑な銀基板上に局部的に2軸配向したTl-1223膜(1 〜3μm厚)を形成し、65,000A/cm2のJc(77K、ゼロ磁界)を得ている。 以上の他、従来の金属系材料においても、人工ピンや多層構造におけるピン止めに関する発表などが多くあり、この分野の研究が活発であることを伺わせた。

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