SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.4, Oct. 1996, Article 12
NSF, DOE が日本の超電導開発状況を調査
全米科学財団(NSF)とエネルギ−省は Loyola College in Maryland のいわゆる JTEC (Japanese Technology Evaluation Center)調査を通じて、日本および同時に独の超電導開発状況の視察調査を行ない、このほどその報告書の原案が公表された。調査は本年7月8人の産官学を含むチームで構成された米国視察団が日本の主な企業7社、電力会社、電力中央研、NEDO、金材研、高エネルギ−研、ス−パ−GM(超電導発電機研究組合)、超電導工学研、山梨マグレブ実験所、東海大、東大などを視察懇談することで作り上げたもの。独では5社とカ−ルスル−エ研究センターを訪ねている。
調査団は米国の開発体制の特色として
- 1)小額の DOE 予算がプロジェクトを補強し、強力に機能している。スタートアップ資金、小規模会社が重要な役割
- 2)産業界/政府/国立研/大学の共同が顕著で効を奏している。
- 3)高温超電導応用への野心的計画は連邦政府の持続的支援如何による。
を挙げ、日本と独の印象は以下のように要約されている。
まず、日本は:
- 1)日本では超電導が21世紀の重要技術であることの国家的な信念がある。
- 2)産業界、政府ともに長期の安定した関与を続けている。予算はすでに世界最大。
- 3)大企業が注目している。
- 4)低温・高温超電導の寄与をバランスして捉えている。
- 5)米国と同等の発展をとげている(ただしプロジェクト規模は米国の2倍)
一方、独は:
- 1)日米に比べ的を絞っている
- 2)低温超電導によりウェイトを置いている(特に核融合用)。
- 3)BMBF が政府の中心として支援(最近になってだが米国より大きな規模で支援、産業界と共同出資)
- 4)長期的視野に立つプロジェクト、超電導を基本的に21 世紀の技術として捉える。
そして、米国の研究開発への示唆として:
- 1)米国は市場化を最初になしとげたが、市場が育つには10年あるいはそれ以上の年月がかかる。
- 2)世界市場は多国籍企業を意味する。国際協力が増加すると思われる。
- 3)小さな企業が重要な役割を果たしつつある。
技術の主要部は依然として前商業化段階にある。国際協力継続の必要
- 4)現在のプロジェクトの導体/装置開発のバランスをとりつつ、長期にわたって推進する必要。
この10年間の米国の達成した主なパワ−関連高温超電導開発事項として、
- 1)線材開発 銀シース材:1km 長を達成(ASC, IGC) 厚膜線材:100万A/cm2 を達成(ロスアラモス研)
- 2)コイル開発:3テスラを達成(20K)(ASC)
- 3)モ−タ−:200馬力
- 4)ケーブル:50m 長を作製通電
- 5)発電機:34A コイルを作製
- 6)変圧器:開発開始
- 7)限流器:2.4kV プロトタイプ作製
を挙げている。
個々の事例については、まず線材開発では:
- 1)Bi2212, Bi2223 線材の発展が国家プロジェクトを作り出し、電力会社のニ−ズに繋がった。その発展は着実に進んでいる。5〜10年後には望みの高温超電導導体が得られると広く信じられている。
- 2)Tl−1223 線材は日立の小規模な努力が続いているだけである。
- 3)Y-123線材は非常に有望な製造法が開発されたが、まだ、初期の段階にあり、種々の方法が活発に試されている。実用線材はすくなくとも5年以上先と考えられる。
- 4)ビスマス系線材では日米互角。独は長尺化で遅れ。
- 5)イットリウム系は米国が短尺物でリード。日本が長尺量産で将来のしてくる可能性。独はやや遅れ。
- 6)日本の新規な科学技術政策で大学が装置を揃えることができることは、日本企業にとって有利な状況を作り出している。
- 7)日本の電力会社は超電導線材メーカーに開発指針を与え、かつ、幾許かの開発費支援を行なう。
- 8)企業の自前の開発費は着実で長期的視野に立っている。
- 9)米国ほど低温超電導と高温超電導の区別がなされていない。
- 10)低温超電導線材開発が日本では高温超電導出現後も着実に続いている。これは、政府と電力会社の支援による。
- 11)Nb-Ti 線材の開発努力は人工ピンでは米国、低AC ロス線材では日本がより活発。
- 12)Nb3Sn 線材開発は日米同等の規模。Nb3Al 線材は圧倒的に日本。
電力システム関連では:
- 1)超電導発電機のリーディングプロジェクトは日本のスーパーGMである。1988 年までの多岐にわたる研究によりその後が決定される。 高温超電導に置き代わるかは、導体性能の向上如何にかかる。
- 2)米国DOE(Reliance Electric 社依託)の高温超電導同期モーター開発はユニ−クで他では行なわれていない。
- 3)アラスカ電力への採用が期待される Babcock & Wilcox 社の超電導電力貯蔵器「スピニング・リザーブ」は世界最大の企画である。
- 4)変圧器は米国市場が$370M、世界ではその3〜4倍、電力会社が注目し始め、開発が促されている。
日本は長期的視野で10年以上を覚悟で着実に開発を進めている。課題は導体の性能向上とコスト低下にある。
- 米国:Waukesha Electric 社−IGC社−1MVAプロトタイプ、30MVA 仕様 Bi2212 被覆テープ−Bi2223 テープ
- 日本:富士電機(住友電工)500KVA, 単相プロトタイプ、Bi2223 テ−プ
- 独:ABB 社(ASC 社)630KVA、3相プロトタイプ、100MVA 仕様、Bi2223 テ−プ
- 5)日本ではNEDOプロジェクトとして電力貯蔵用フライホイール開発がスタ−ト。予算規模は95年 3億円、96年5億円、5年後に1kW 級の試験を行ない、10kW 級設計の技術を蓄える計画。
- 6)総発電量は日本150 GW(年間1.3×1012kWh)、米国635GWで米が4倍強。 米国では電力会社の規制緩和で小規模会社乱立のため、電力会社の超電導支援はほとんど期待薄。
冷凍機については
- 1)日本における冷凍機の発展が著しい。大型機器には reverse Brayton cycle ヘリウム液化機が使われている。高エネルギ−研と日本メ−カ−は大型ヘリウム液化機に十分な経験。しかし、最も顕著な発展は小型冷凍機(4−10K, 1-10W)で、稀土類合金蓄熱剤を開発し、いち早く市場化している。これを用いて、伝導冷却型磁石やMRI 用磁石(三菱電機)に適用。
としている。
この報告者原案について、インタヴュ−を受けた一人として、東大工学部北沢宏一教授は「ほぼ予想された内容で、調査団は来る前から日本の状況は良く把握していた。これは、ISTEC、NEDO、Super-GM などを含め、最近の日本の広報活動がしっかりしているためで、いたずらに疑心暗鬼を誘った面がある過去の情報流通不足が解消されており、両国のコミュニティが安心して交流できる素地が築かれて来ていることを評価できる。ただし、この報告書は、これを基に、今後、米国の超電導コミュニティが連邦政府に働き掛けを行なうために使われると考えられるので、その観点から判読する必要があるだろう。たとえば、この内容が雑誌 NATURE などで”日本の予算の半分で互角以上の米国の成果”といった引用のされ方をしているが、そのことは先方も承知のうえでやっていることである。むしろ、重要なことは、国際協調の必要性などが述べられている点などに注目したい。対等なパートナーの関係を今後も続けることが良い雰囲気をこのコミュニティに継続させるだろう。」とコメントしている。
(JJY)
[前の号へ
|前の記事へ
|目次へ
|次の記事へ
|次の号へ
]