SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.4, Oct. 1996, Article 11

拡散法による新しいBi2212電流リードの作製 〜 東海大学

 東海大学では、金属間化合物超電導体の線材化法に類似した、拡散法による高温超電導体の合成について研究を続けており、さきにY-123相大口径磁気シールド管の作製に適用し、最近ではTIFを用いて、77K、磁界下で臨界電流特性の良いTl-1223拡散相を容易に生成している。
 一方、高温超電導体電流リードの出現によって、冷凍機冷却超電導マグネットの新しい技術分野が展開され、超電導利用の普及に大きく貢献している。東海大学工学部太刀川恭治教授と山田豊教授の研究室では、この拡散法を利用して、電流リードとして有望な、高性能で新しい形式のBi-2212導体を開発した。
 拡散法では、高融点基材と低融点被覆材の反応により、短時間で、厚く均一な拡散相(超電導相)を生成させる。 今回のBi-2212相の場合、高融点のSr-Ca-Cu酸化物(Bi:Sr:Ca:Cu=0:2:1:2)を直径3mm、長さ50mmの中実円筒状にCIP後燒結した基材の円周表面に、30wt%のAg2Oを添加した低融点のBi-Cu 酸化物(Bi:Sr:Ca:Cu=2:0:0:1)を被覆し、熱処理をおこなった。図1に850℃、20hの熱処理を行った試料断面を示すが、円筒試料表面に厚さ150〜200μmの超電導拡散相が均一に生成された、新しい形式の導体が作製された。被覆材中に添加されたAg2Oは、拡散反応を促進する効果があり、反応後、図1 に見られるように試料表面に押し出される。本組成の基材は緻密で、良好な機械的性質をもっている。
 本円筒試料の臨界電流 Ic は、液体ヘリウム中(4.2K)では8T まで300Aを越えており、拡散相厚さから換算したJc は、20,000A/cm2以上となる。図2は、同試料のIcの温度(25- 75K)及び磁界(0-3T)依存性を示す。Icは25Kでは、0.05Tまで300Aを越えるが、温度および磁界は、それぞれ35K- 1T、40K- 0.5T、50K- 0Tである。試料表面に集積したAgは、試料に通電する際の電極の形成を容易にする利点がある。3端子法により、測定した導体両端の抵抗は10-8Ω台で、Ic付近までオーミックな関係が得られている。
 0212拡散基材の熱伝導率は、岩手大学工学部能登宏七教授、松川倫明助教授の定常熱流法による測定によれば、30Kで約40mW / cm・Kである。4K- 40K間の熱伝導率の積分値は1.1W / cmとなり、直径3mm、長さ100mmの本導体の4K- 40K間の熱侵入量は、およそ8mWと計算される。これを電流リードとして使用する場合、次のような具体例が挙げられる。使用温度範囲を低温端4K、高温端40Kとし、0.5Tの漏れ磁界下で300Aの通電電流とすると、直径9mm、長さ150mmの本導体一対の熱侵入量は、約100mWである。最近の磁性蓄冷材を用いた冷凍機の4Kにおける冷却能力は、1Wに達するので、本導体は冷凍機冷却型超電導マグネットの電流リードとして、電気的、熱的に十分な特性を備えている。
 金属材料技術研究所・研究グループリーダー熊倉浩明氏は、「拡散法は酸化物超電導体の組織制御を行う方法の一つとして興味深いが、今回この方法で実用レベルの Icが得られたのは注目され、今後バルク応用に期待が持たれる」と述べている。また、企業サイドから同和鉱業(株)・超電導開発センター統括部長吉澤秀二氏も「拡散法は比較的シンプルなプロセスで 、高いJc の200μm程度の厚膜を得ることができる。実用的には極低温機器用の電流リードとしてだけではなく限流器や環境磁気シールド等の用に適した、大面積超電導厚膜の成膜法になろう」とコメントしている。  拡散法は、反応温度で安定な超電導相をいわば自動的に生成でき、組成の詳細な調整が不要なこと、反応時間が比較的短時間であること、種々の形状の導体作製に適用できることなどの特徴をもっている。また、今回被覆材に添加したAg は、拡散反応を促進する一方、2212相には固溶せず、表面に押し出されるため、導体の接触抵抗を低下させるユニークな効果をもっている。今後、導体の大型化や、電流リードとしての実用試験のほか、拡散相組織とJcの関係など、基礎研究の面からも興味ある課題が残されている。

図1 Bi-2212円筒試料横断面

図2 試料のIc- T -B 特性

(北南)


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