SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.4, Oct. 1996, Article 7

Alcatel Alsthomが交流用線材と電流リードを発表

 フランスのAlcatel Alsthomは、高抵抗マトリックスを用い、更にツイスト加工を施したパウダーインチューブ線材を開発したと報告した。この研究は、大きなマーケットが期待される交流応用に適した導体を開発することを目的として、 Alcatel Alsthom GroupがElectricite de France のサポートを受けて行っているもので、グループ内にはAlcatel Cable、 Alcatel Alsthom Recherche Centerが含まれる。50Hzの交流応用を目的として、最近多くの研究が発表されており、このためには高抵抗マトリックスとツイストピッチ10mm以下の超電導フィラメントで構成される低交流損失の線材の開発が必要であるとされている。 Alcatel Alsthom Recherche Centerでは、既にBi2212及びBi2223の100m長の64芯線を作製しており、"rectangular Alcatel Alsthom route"で特許を受けている。
 この度発表した線材は、Bi2212線材で20Kでの応用を目的として試験されたものである。線材には、Hoechst製のプリカーサーパウダーが使われており、高抵抗マトリックスとしてはAg-Pd合金が使われている。また、線材のツイストピッチは7〜9mmである。この線材の断面積は2.9x0.54mm2で、4.2K自己磁場中で再現性良く400〜500Aの通電電流が観測された。線材の、Je(Icを線材断面積で割った値)は30,000A/cm2で、超電導体の断面積が線材の35%であることから算出した超電導体のJcは90,000 A/cm2である。また、液体窒素中での通電電流18Aであった。同グループは液体窒素中で使用する線材として、Bi2223線材についても研究を行っており、ツイスト加工は施していないものの通電電流60A、Jc=11,000 A/cm2を得ている。
 今回の発表では、マトリックスの組成、抵抗値、線材の交流損失、超電導特性の詳細等明らかになっていない部分が多いが、交流用線材に関しては実用化されればケーブル、機器等の用途展開が広がることから、今後の長尺化の成果に期待が持たれる。
 同グループはこれと同時にBRITE/EURAM Project(Alcatel Alsthom Group, Hochst, Siemensが参加)の成果としてAC 5kArms-50kVrmsハイブリッド電流リードの作製に成功したと発表した。この電流リードの設計は実際の電力系統に要求されているものに近く、0.1mのBi2212の酸化物超電導部分と0.2mの銅リードで構成されている。この構造は、交流損失、熱伝導、冷却、真空、及び高電圧という多くの要求のバランスの上に決定されたものであり、このリードの使用によって全体の冷却効率は従来の金属リードと比較して3倍になる。5kArmsという値はピーク値で7.1kAに相当する事から、通電容量としてもチャンピオンデータとなる。
 昭和電線電纜の長谷川隆代氏によれば、交流線材は現在、多くの研究機関で開発が始まったばかりのものであり、今回の発表ではマトリックスの組成、抵抗値、線材の交流損失、超電導特性の詳細等、明らかになってない部分が多いが、今後のこの研究を加速する発表であるとのこと。また、電流リードについては、この規模の課通電試験を行った結果が発表されたのは、これが初めてであり、バルク体の性能の良さと耐圧構造のR&Dの結果と考えられる。着実に共同研究の成果が上がっていることが窺える。
 これらの線材、電流リードのいずれについても8月25日からアメリカのピッツバーグで開かれたApplied Superconductivity Conferenceで発表された。

(STH)


[前の号へ |前の記事へ |目次へ |次の記事へ |次の号へ ]