SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.4, Oct. 1996, Article 6

高速走行線材に混入した微鉄粉の高温超伝導SQUIDによる検出 〜 住友電工・伊丹研究所

 住友電工伊丹研究所は、高速で走行する線材に含まれる数十ミクロン径の鉄微粉を、高温超伝導SQUIDにより検出することに成功したと、6月24日から27日に岩手県八幡平で開かれたISTEC主催の国際超伝導ワークショップで報告した。 高温超伝導体のエレクトロニクスへの応用として、SQUIDは早くも実用化レベルに達してきており、その応用研究が活発化している。これまでニオブ系SQUIDで進められていた脳磁診断装置に対して、高温超伝導SQUIDでは非破壊検査部門への応用展開が期待されている。
 高速走行の線材中の鉄微粉検出実験は、写真1のような装置で行われた。磁気シールド円筒の側面に小穴をあけて、線を通すことで長尺の線の高速走査検査を可能とした。実験では、ナイロン線に鉄微粉を付けて分速10mで走行させた。磁気シールド手前に磁石を配置して、走行中の鉄粉を磁化させた後に、SQUIDにより鉄粉を検出できるようにした。用いたSQUID素子は、住友電工で開発した磁束トランス型素子であり、その白色ノイズレベルは約48fT/√Hzである。この素子は超伝導交差配線を含む磁束トランスを形成した基板と、基板段差型接合を用いたSQUID基板を張り合わせた構造である。素子は写真2のように、直径30mmのチップキャリヤーに実装され、樹脂封止されている。素子と線材の距離は約15mmであった。素子は液体窒素により、77Kに冷却して動作させている。実験の結果では、50ミクロン径の鉄微粉が明瞭に検出できている。さらに、100ミクロン程度の鉄微粉で高速走行の実験を行ったところ、分速500mの高速走行でも、分速10mの場合に対して20%程度の信号低下しかないことが確認でき、SQUIDがこのような高速の検査にも十分対応できることが確かめられている。高速で通過する微小な鉄微粉が検出できたことより、非鉄線材の製造工程への応用のみならず、食品や医薬品へ混入した金属などをインラインで検知可能とすることができ、高温超伝導SQUIDの実用化が楽しみである。

写真1:線材中の鉄微粉を検出する装置

写真2:磁束トランス付き高温超伝導SQUID素子

(烏賊)


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