SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.4, Oct. 1996, Article 4

超電導接続酸化物ソレノイドコイルで永久電流モード動作に成功

 (株)神戸製鋼所と科学技術庁 金属材料技術研究所は共同して、超電導接続した酸化物ソレノイドコイルの永久電流モード動作に、世界で初めて成功した(現在「低温工学」に論文投稿中)。
 従来の酸化物超電導コイルの研究開発は、テープ線材を用いたパンケーキコイルを中心として行われてきた。しかし、パンケーキコイルの場合、層間にスペーサーを用いるため、巻線の微妙な乱れが磁場均一度に大きく反映され、一般に高精度の磁場均一度を得ることは非常に難しい。代表的な高磁場応用の磁気共鳴分析(MRS)用の超電導マグネットでは、試料空間で10-9オーダーの磁場均一度を得る必要があるが、パンケーキコイルではそのような磁場均一度を達成することは困難である。しかし、ソレノイド状に巻線したコイルでは、スペーサーを用いず高い磁場均一度が期待できる。今回、パンケーキコイル製作時よりも高い圧力中で酸素分圧を制御するという新しい熱処理方法を用いることにより、ソレノイドコイルの製作を行った。また、MRS用超電導マグネットでは高精度な時間安定性も同時に要求されるため、永久電流モードで運転する必要がある。しかし、これまでは酸化物超電導線材の超電導接続を行うことが難しく、接続した酸化物コイルの永久電流モード動作は例が無かった。今回、ソレノイドコイル用線材の超電導接続方法を新たに開発しコイル製作に適用した。
 本コイルは、一本の単芯AgシースBi2Sr2Ca1Cu2Ox (Bi-2212)平角線材をソレノイドコイル状に巻線し、その両端に超電導接続を施して永久電流スイッチを備え付けたものである。超電導接続は、Bi-2212仮焼粉末を介して接続すべき線材の両端を接触させコイルと同時に熱処理することにより形成した。永久電流スイッチは、コイルと同様の平角線材を用い、加熱用のヒーターを備え付けた。製作したBi-2212ソレノイドコイルの写真を図1に示し、諸元を示す。
 図2には、4.2KにおいてBi-2212 ソレノイドコイル100Aまたは80Aの電流(Iop) を通電した時の発生磁場(B0)の永久電流モード動作時間(top)依存性を示す。図2に示すようにBi-2212ソレノイドコイルが発生した磁場は、永久電流モード動作開始後約10min間は比較的速く緩和した。しかし、その後の緩和は緩やかであり、B0の値はtopの対数に対して直線的に変化した。このことからtop>10 minでは発生磁場の緩和はフラックスクリープによって生じたものと考えられる。Iop=80 Aの時、20 min ≦top≦6000 min の範囲における磁場緩和からピンポテンシャルを見積もったところ、0.27 eV の値が得られた。この値は、Bi-2212単結晶において、磁束がC軸に平行である状態で磁化測定から求めたピンポテンシャルよりも一桁高い価になっている。これは、今回の永久電流モード動作では、磁束がC軸に垂直である状態で緩和が生じていることと関係しているものと考えられる。
 Iop=80 Aの時、4100 min ≦top≦6000 min における磁場減衰の値は、磁場の測定限界以下であった。市販されているMRS用金属系超電導マグネットの慣例に従って、回路全体の微小抵抗を仮定し、このtop範囲における回路全体の抵抗を見積もると、1.6×10-11Ω以下の抵抗が実現されたことになる。この微小抵抗値は、市販されているMRS用超電導マグネットの抵抗の値( 10-11〜10-10 Ω)に匹敵するものであり、今回開発した酸化物超電導線材が完全に超電導接続され、酸化物超電導コイルとして永久電流モードで動作されたことを初めて実証したものである。
 今回の成果は、超電導接続した酸化物超電導コイルの永久電流モード動作を世界で初めて実証したものであり、MRS用酸化物超電導マグネットの実用化に向けて大きく前進したことを示すものといえる。今後は、永久電流スイッチ断熱方法の改善、コイルの規模の拡大等により、実用化へ向けて発生磁場を向上していくことを計画している。
連絡先:株式会社 神戸製鋼所電子技術研究所 超電導研究室 〒651-22 神戸市西区高塚台1丁目5-5
TEL: 078(992)5652, FAX: 078(992)5650 長谷隆司, 林 征治
(コイル諸元)
巻線外径:48 mm
巻線内径:13 mm
巻線長さ:45 mm
線材全長:28 m

図1 超電導接続した永久電流モードBiソレノイドコイル

図2 発生磁場の永久電流モード動作時間依存性

(Hasse)


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