SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.4, Oct. 1996, Article 3

過冷却窒素冷却 800kVA 酸化物超伝導変圧器を開発 〜 九州大学・富士電機・住友電工・大陽東洋酸素−

 超伝導変圧器の研究は、1980年代初頭のウェスチングハウス社の1000MVA器の概念設計により超伝導器の経済性が期待できる条件が示されて以来、交流用金属系超伝導線材の開発とあいまって、主にフランスや日本で進められてきた。これまでに、ニオブチタンを用いた設計容量1000kVA器(九大、東芝)など、さまざまなモデル器が試作されているが、交流用より線導体の不安定性、ヘリウム冷却における高電圧対策など、今後解決すべき課題も少なからず指摘されている。これに対して、酸化物超伝導体が変圧器を始めとする交流機器に利用されるようになると、このような金属系超伝導機器における課題の多くは、比較的容易に解消する可能性がある。現在、線材化が進んでいるビスマス系銀シース線材を用いてABB 社のグループ(本誌Vol. 4 , No.1 )や、IGCのグループ(ASC 96, LR-2で報告)などで酸化物超伝導変圧器を試作する計画があり、変圧器が酸化物超伝導体を利用した電力機器として初めて実現する可能性も高い。
 九州大学工学部超伝導科学研究センターでは、富士電機・住友電工と共同でビスマス系酸化物超伝導線を巻線に用いた液体窒素冷却、定格容量500kVAの単相超伝導変圧器(その外観写真を図1に示す)を試作し、一連の特性試験を行ってきたが(本誌 Vol.5, No.2 で一部既報)、この度、液体窒素冷却時に500kVAの実負荷運転を1時間にわたって実施し、さらに、NEDOからの受託研究として66K過冷却窒素冷却により800kVA相当の通電試験に成功した。また、特性試験の詳細は、米国ピッツバーグで開催された1996年応用超伝導会議 (ASC96) の Transformers and Current Limiters のセッションで8月29日に報告された。
 本誌の前回の報告では、液体窒素冷却酸化物超伝導変圧器の無負荷試験と短絡試験の結果より設計通り500kVAの容量をもつ変圧器が実現したことを紹介したが、今回の特性試験では、さらに、実際に二次側に500kVA誘導性負荷を接続した状態での実負荷試験で、設計レベルの容量での定常的な運転が可能であることが実証された。また、一連の特性試験で測定された鉄損、超伝導巻線の交流損失、断熱容器からの熱侵入を考慮した変圧器の効率は99.1%に達した。なお、効率評価の際には、この3種類の熱負荷のうち冷媒への熱負荷となる後の2つに対しては、液体窒素の冷凍効率を考慮した係数(ここでは20倍)を用いている。
次に、超伝導変圧器のクライオスタットに連続的に過冷却窒素を供給する設備を付加して、過冷却窒素冷却時の超伝導変圧器の特性評価を行った。この変圧器容量のグレードアップにおいては、上の研究グループに大陽東洋酸素が加わって過冷却窒素供給装置の設計製作に当った。70K程度以下の過冷却窒素による冷却技術は、将来酸化物超伝導変圧器が実現する際に次のような利点をもたらすものと考えられる。
(i) 過冷却窒素自体が絶縁油に匹敵する電気絶縁特性を持つと同時に、不燃性であること、 (ii) 70K程度以下の温度領域では、77Kと比べてBi−2223線材の臨界電流特性がかなり改善されるので、設備の小形化、軽量化につながること、  (iii) 冷却系を維持するために高効率で一段式の冷凍機が使用でき、効率の向上が期待できること、 などである。設計製作した過冷却窒素供給装置の構成を図2に模式的に示す。変圧器の主クライオスタット内で加熱された過冷却窒素はクライオポンプで熱交換器に送られる。熱交換器内の飽和液体窒素は真空ポンプにより減圧されて温度を65Kに維持されている。加熱された過冷却窒素はここで冷却されて主クライオスタットにもどり過冷却窒素の循環サイクルが維持される。今回は、主クライオスタット内の過冷却窒素の温度を66Kに設定した状態を初期状態にして変圧器の短絡試験を行った。
 超伝導変圧器の通電レベルを過冷却窒素温度66Kでの巻線の臨界電流まで上昇させ、交流損失の測定、効率の評価を行った。その結果、一次電流121Aまで安定に通電することに成功した。これは、77Kでの最大通電レベルの1.6倍に達しており、今回製作した変圧器が66Kの温度で800kVAの容量を持つことを示している。また、この通電レベルでの交流損失の測定より、効率も99.3%まで向上していることがわかった。
 九州大学工学部超伝導科学研究センターの船木和夫教授は「これまでのBi−2223線材を巻線にした酸化物超伝導変圧器の特性評価の結果は、現存のBi−2223銀シース線でもその導体構成や使用形態によっては50/60Hz仕様の線材として利用できることを示している。将来の交流用酸化物超伝導電力機器の実現に向けては、Bi−2223銀シース線の高電流密度化、低損失化をはじめとする酸化超伝導交流導体の特性改善、過冷却窒素冷却を利用した高電圧化技術の確立、などの基盤研究がますます重要になるだろう」とコメントしている。

図1 酸化物超伝導変圧器の外観

図2 過冷却窒素供給装置


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