SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 16

第16回国際低温工学会議//国際低温材料会議(ICEC16/ICMC)

開催日時 5月20日〜24日 場所 北九州国際センター
 こんな風にいうと顰蹙をかうことになるのはわかっているのだけれど、やはりこれから始めさせてもらう。筆者にとって参加している回数の一番多い国際会議がこのICEC だけど、会議全体の主調ということなら別だが、なにか一つの論文が会議のトピックだといって騒がれるようなものが報告される会議だ、と思ったことはないし、そんなものに行き当たろうとして参加したこともない。ICECは、ときの応用超電導、極低温関連技術の到達点を全体として理解させてくれる国際会議だと考えている。
 だから、この会議メモも、ある論文の題目が挙がるメモだと思わないでいただきたい。そのことは、今回の会議・国際極低温材料会議(ICMC)と共催のこの会議でも、会議そのものはもとより、付属の催し物・展示会によく現われていたと思う。
 充実した展示会が今回の会議の特色の一つだった。関連企業、核融合研や JR総研などの出展で39のブースが満杯になった。浮上式リニア山梨実験線の超電導マグネットの実物大モデル 、LHC要素部品R&Dモデルなど具体的な展示は迫力があった。展示のもう一つのハイライトはクライオクーラー冷凍の液体ヘリウムを必要としないドライ・マグネットの勢揃いだった。この展示会は展示内容とともに海外からの参加者の賞賛、あるいは垂涎の的であった。
 ICECは京都国際会議場で誕生した国際会議である。いわば日本生まれの、応用超電導技術、極低温冷凍技術に関する国際会議でそれ以来、2年毎にヨーロッパと日本(アジア)のどこかで開催されている。日本では初回の後、第五回(京都国際会議場)、第九回(神戸ポートピア)を開催していて今回が4回目の開催である。米国には応用超電導会議(ASC 毎年開催。ことしは8月ピッツバーグで開かれる)、CEC(米国で毎年開催の低温工学会議)があるのでICECは米国で開催されたことがない。ICMCは米国も含めて2年に一度開催されている極低温材料の国際会議で、間の年にトピカルミーティングが開かれる。今回のICECとの共催もトピカルミーティングの一つとして位置づけられるもので今回3回目の共催になる。どちらの会議も超電導と冷凍を縦軸に、基礎および材料と応用技術を横軸にした四象限の問題すべてを扱っている。ということでカバーする範囲は非常に広い。
 参加国は主催日本を含めて21ヶ国。今回は国内から521名、海外から約193名、あわせて714名の参加があった。国内参加数はこの会議の主催団体である(社)低温工学協会の研究発表会参加者にほぼ等しい。ドイツ38名、スイスの25名、米国の23名がこれに続き、フランスから14名、中国から14名、英国から9名、ロシア7名などであった。学生の登録料を安くしたため、国内外あわせて65名の学生が参加してくれた。若手育成面でも特筆すべき成果だったと思う。
 この会議への日本の思い入れは深い。ヨーロッパのどこで開催されても参加者数で5指に入る、いや3本指からはずれたことはないと思う。だからということでもないだろうが、今回の運営を担当した九州大学を中心とする現地実行委員会の熱の入れようも大変なものであった。九州大学は電磁論と超電導コイルの世界のメッカの一つでもある。そんなことが結びついて今回の大盛会に結びついたということになる。
 とにかく、これまでの日本でのICECは前後のヨーロッパでのICECよりは盛会になる傾向があった。一つの理由は、日本における応用超電導技術での話題の豊富さにある。ヨーロッパの場合は加速器と核融合に関する大きなプロジェクトに話題が限られる。日本でなら、もちろん高エネルギー物理研究所を中心とする加速器の超電導、極低温技術もあるし、日本原子力研究所那珂研究所や核融合科学研究所の広範な超電導マグネット、冷凍技術の話題もあるが、なによりも超電導磁気浮上式鉄道があり、超電導電磁推進船があり、スーパーGM(超電導発電機開発)がありマルチコアプロジェクトがあり、超電導工学研究所がある。だからにぎやかで楽しいんだと海外からの参加者は云う。そして全体としてヨーロッパの時よりも運営が組織的で、ちょっと派手。本格的な学術的な国際会議というよりは工学色の強い実務的な会議という見方もできる。
 そういう海外参加者からの期待にもそうように、会議は超電導工学研究所の田中昭二所長の高温超電導体研究開発の進展と実用化、鉄道技術総合研究所の尾関雅則理事長の浮上式鉄道と山梨実験線の現状についての招待講演からスタートした。その後にスーパーGMの報告が5件、ロシアからの超電導発電機報告1件の6件から構成される超電導発電機口頭発表セッションが続いた。どの話題も年を追っての成果が新しい話題として提供されており、技術の進展が実感できる講演だった。
 最後の日には国際核融合装置ITERの、土岐の核融合科学研究所LHC(大型ヘリオトロン装置)の超電導・極低温技術開発という核融合関連技術の現状が報告されている。この間に大型極低温冷凍技術、クライオクーラーとパルス冷凍機の開発の現状、ヨーロッパの加速器超電導技術開発、超電導材料および極低温構造材料の招待講演がセットされていた。
 一般報告約500件は一部口頭報告、約2/3はポスター・セッションとして発表された。地元九州からも高温超電導変圧器(スーパーコム前号に記事掲載)を含め、たくさんの発表が行われた。
 次回は再来年、英国のボーンマス、かのドレーク船長のふるさとで開催される。サザンプトン大学でのICEC 12(1988年)の際、バンケットにこのボーンマスの海岸のクラブハウスに招待された。軽やかな渚の白砂と有名な白い断崖の続く眺めを、レッドバレルという真っ赤なビールの味とともに覚えている日本からの参加者も多いのではないだろうか。ロンドンまでの帰り道にはストーンヘンジやソールズベリー大聖堂にも立ち寄れる。さらにその次の2000年のICEC はインドでの開催が決まっている。

( HO )


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