SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 17

韓国の超伝導事情

 韓国物理学会は1953年に数十人の物理学関連者が集まって構成され、現在では会員数4500人に達している。最近科学技術立国の重要性の認識が深まり、不況の中ではあるが、科学技術予算は10%台の伸長が続き、大学では企業との技術開発共同センターなどの設立が始まっている。センターは学生と企業からの派遣研究者の受け入れを行なって共同研究の推進が企図されている。今回、物理学会内の応用物理分科会により、初めての国際会議International Conference on Advanced Materials and Devices (ICAMD'96)が 6月11日より13日までソウル国立大のY. W. Park教授主催のもとに開催された。開催地はソウルの南東約3時間の山中、三星財閥の関連企業が開発中の大規模な総合リゾートPhenix Parkであった。主題は高温超伝導、磁気記録、フォトニクス、ナノストラクチャー、有機超伝導であった。出席者は約150名。米国からは J. R. Schrieffer (NHMFL)、Wei-Kan Chu (Houston 大)、K. Char(Conductus)など数名、ヨーロッパ2名、日本より福山秀敏(東大理)前川禎通(名大工)、寺崎一郎(超電導工学研)、北沢宏一(東大工)ら高温超電導関連者のほか、有機フォトニクス、磁気材料、STM によるナノ加工などの関連で十数名が参加し、応用物理関連では、韓国と日本の結び付きが強いことを示していた。
 韓国の超伝導研究では人数的には大学、国研を中心とする基礎研究者数十名と企業の応用研究者十数名程度が中心と考えられた。1988年よりソウル国立大のZ. G. Kim教授、韓国標準局(KBS)のJ.C. Park博士を中心として1997年まで科学技術省より年約4億円の研究費が特別プロジェクトとして支出されており、毎夏保養地ヨンピャンでの国内会議が行われている。本夏には今後のための見直しがある予定だ。
 応用ではSam Sung(三星)のJ. P. Hongらを中心とするマイクロ波フィルター、LGエレクトロニクス(金星)のB. Ohらを中心とする高温超伝導スクイドによる心臓磁気・非破壊検査測定システムの開発KERI(Korean Electrotechnology Res. Inst.)のD. Y. JeongらによるTl1223多芯線材の開発がとりあげられていた。特にフィルターは軍需もあり、研究に熱が入っているように思われた。主催者のY.W.Parkソウル国立大教授によれば、フィルターは今年の暮れから来年にかけてシステムとして実地試験ができるようになると予想しているようだ。Conductus のChar氏が「受信用フィルターに関する限り技術的問題は完全にクリアした。今後は大電力を必要とする送信用フィルターとしてノンリニアリティの問題とロスの問題の解決がまだ必要」と語ったのに対し、「韓国では大面積薄膜の製造技術とその品質向上がまだ受信用にも必要」との会場でのコメントがあった。
 一線で活躍中のOh氏とChar氏はスタンフォードのGeballe 、Beasley氏のもとでの同窓生、Hong氏はUCLAの出身で米国籍を持つという。基礎研究は規模的には日本の数分の一程度であるが、米国に留学し、各地の大学などでの勤務経験のある30代、40代の研究者が中心で、英語も流暢であり、また米国流のaggressiveな研究の態度を身に付けた人達による研究がなされていることが目についた。

(PKO)


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