SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 15
高温超伝導体ボルテックスダイナミクスワークショップの話題から
高温超伝導体ボルテックスダイナミクスワークショップ(International Workshop on Vortex Dynamics in High-Temperature Superconductors)の第3回目が6/23〜27にかけて、
エルサレム近郊のShoresh で開催された。
Weizmann Institute のE. Zeldov とBar Ilan Univ. のY. Yeshurun、
イスラエルのVortex 研究を代表する2人が主催者であった。
ワークショップ はクローズドであり、Vortex 関係の研究を行っている世界の一線の研究者が約100名勢ぞろいし、活発な討論が繰り広げられた。日本からは6名の参加があった。会議の質の高さもさることながら、エルサレムへのExcursion ではこの地の歴史の重さ・複雑さを痛感させられた。
ワークショップで取り上げられた話題を順にキーワードとしてを取り出してみるならば、Josephson Plasma、Vortex Lattice Melting、Plastic Motion、Vortex Dynamics などがあげられる。
Josephson Plasma に関しては日本の寄与が大きかったといえよう。特に、Matsudaは酸素量を制御したBi2Sr2CaCu2O8における詳細な実験結果および角度依存性、相図との関係等、幅広いレビューを行った。しかし、PrincetonのOng が直前になり参加できなくなったこともあり、十分な議論があったとは言えない。Vortex状態を探ることのできる新しいプローブであるだけに次回の会議までの進展が楽しみである。
Vortex Lattice Melting に関しては主催者であるZeldov のグループによる微小ホール素子を用いたBi2Sr2CaCu2O8の実験データが多くの注目を浴びていた。DC、AC測定のほか、Disorder のMeltingおよびPeak 効果に対する影響の研究など多くのことが明らかになりつつある。1 次転移であるMeltingに伴う(パンケーキあたりの)エントロピー変化は低温側で0.5kBであり、転移温度に向かって急速に増大して行くさまが確認された。Sudbo はこのエントロピーの増大がTc近くでの超伝導層に平行な磁束ループの励起に起因しているとしている。また、Schilling らのYBa2Cu3O7での磁束格子融解にともなう比熱異常の発見は、会議の大きな目玉の一つといえる。低温での(パンケーキあたりの)エントロピー変化はこの場合も0.45kBでありBi2Sr2CaCu2O8とほぼ一致しているのは興味深い。しかし、YBa2Cu3O7の場合にはTc 付近でのエントロピーの増大は見られない。
さらにWelpらはSQUIDを用いた磁気測定から、
YBa2Cu3O7ではTcの2Kほど下で
エントロピーの飛びが見られなくなってしまうという、
Bi2Sr2CaCu2O8とは異なるふるまいを見せることを報告した。
これまで多くのVortexの実験は磁束格子の変形をelasticな範囲で考えていた。
しかし、実際のシミュレーションをやって見るまでもなく、
plastic な変形を取り入れなければならないのは明らかであろう。
特に、Vortex Flow が起きる様な状況では全体がいっぺんに動き始めるわけではなく、
channel flow のような様式でこれが始まると考えられる。
この会議でも、plastic motionを示唆するような実験データもいくつか発表されていた。
これからの方向として重要であろうと感じられたのは、Vortex Dynamics に関する研究である。
おもに、理論およびシミュレーションが中心であるが、
現実の実験データ(磁気光学観察、ローレンツ顕微鏡)を再現し、
さらにまだ実験が行われていないような状況におけるシミュレーション等も発表されていた。
Noriは様々な場合についてのシミュレーションをビデオにして発表していた。
十分なディスカッションの時間があったにもかかわらず、
それをはるかに超える多くの質問・コメントが止めどもなく出てくる様は一種圧倒されるものがあった。
次回は来年ETH のBlatterが主催することに決まったようである。
すでに再来年以降の開催に関しても複数の立候補があるようだ。日本でもこの程度のワークショップが開ける環境を整えたいものである。
(Endeavour)
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