SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 13

超電導極超低周波(ELF)アンテナを開発 〜 海底通信、資源探査、地震予知応用に

 金沢工業大学 (Kanazawa Institute of Technology; KIT) 人間情報システム研究所は米国コンダクタス社(Conductus; CDTS)の協力により、超電導センサ(SQUID)を用いた極低周波アンテナ(Extremely Low Frequency Antena;ELFA)の開発を行った。
 極低周波(Extremely Low Frequency; ELF)とは周波数1kHz以下の極めて緩慢に変化する電波(電磁波)で、従来この周波数帯域の電波は一般にはほとんど電波として認識されてはいない。しかしながら、ラジオやテレビの電波(300kHzか1GHz)では減衰が大きく実用にならない海中や地中などでもELFの磁場成分は存在できることから、海底通信、資源探査、海中物体探査、地震予知、地質調査など極めて限られた分野では実用化について研究や試作がされてきた。ELFは1Hz以下の低い周波数になると海中や地中での波長は数千kmにも及ぶことがあり遠方の火山爆発、地震等の事前、事中の観測が報告されている。
 ELFを発生するためのアンテナ (ELFA)の従来型のものは、80kmに及ぶ送電線構造、検知するものは大深度(2000m)の垂直溝に垂らした金属線など長大な構造物によって構成されており、その建設には膨大な費用を必要としていた。このため、ELFAを用いた研究拠点は非常に限られたものであった。またELF の電場と磁場は本来ベクトル量であるが、従来のELFAでは電場磁場の変化の共振を利用し振幅強度に比例したスカラー量を検出するものであった。これに対して超電導ELFAはELFの磁場のベクトル量(3成分)を互いに直行した3個の超電導センサによって検出するものである。主な構成要素は、アンテナの核心部分である超電導磁気セン(SQUID)、センサを超電導状態に保つクライオスタット、センサを駆動する電子回路および制御、信号処理を行うデジタルシステムからなる。その大きさは、クライオスタットがほとんどの体積を占め、直径0.5m、長さ1.2m程度の円柱である。
 磁気センサとして用いられているSQUIDは現存するセンサのなかで最も高感度な磁気電気変換素子である。地磁気の100億分の1の微小磁場も検出可能であり、磁性材料の磁化率測定、生体磁場計測システム、非破壊検査システムなどのセンサとして、センサ近傍の磁場源が発生する極微弱磁場の検出に用いられてきた。いわば磁場の顕微鏡である。ELFAはアンテナの組み合わせと信号処理によって、磁気雑音のある環境のなかで極めて遠方の発生源からの微弱磁場を検出するものでいわば磁場の望遠鏡といえるものである。従来のSQUIDは感度が極めて高いこと、またダイナミックレンジやスルーレイトの問題などで、厳重に磁気シールドされた環境(磁気シールドルーム)で用いられてきた。今回開発したELFAではSQUIDの新しい設計と駆動エレクトロニクスの改良などを行ない屋外環境磁場下で駆動できるものとなっている。
 今後の展開応用研究としては、超電導ELFAを用いた広域地磁気観測システム(ELFA Net)や、資源探査用移動体搭載型システム、海底通信用アンテナシステム等の開発を考えている。
 ELFA Netは2台のELFAを、10kmから30km程離して設置し両方の信号の共通成分をクロススペクトル加重フィルタリングにより取りだすことで遠方から来るELFを検出するユニット(ELFA pair)を構成し、さらに広域(500kmー2000km)にわたってELFA pairを分散設置し、ELFの分布をリアルタイムで観測するシステムである。このシステムは地殻変動にともなって発生するELFの発生源の定位を行うことが可能である。このようなシステムは特に電磁現象の観測による地球物理学的研究への応用を考えている。
 超電導ELFAシステムの地球物理学的応用で最もホットな話題は地震、火山噴火等の予知への応用である。ELF帯域における観測による予知の可能性については、1970年代後半から1980年代の初頭にかけてカリフォルニア、サンアンドレアス断層において、SQUIDを用いたMT法による先駆的な研究が行われ地殻構造のコンダクティビティーによる推定から、予知のデータを得ようという研究がなされている。その後、ソビエト(現在のロシア)、ギリシャなどで、地電流の観測から予知を行う研究も行われ、ある程度の成果が出ているといわれている。
 一方、地殻構造や地殻変動の複雑さから前駆現象と背景雑音を識別することは出来ないと言う議論もされている。多くの電磁気地球物理学者が、地電流とその結果として発生するELF の観測が有効であることを指摘しているが、広域磁気変動観測システム(ELFA Net)のような広範囲にわたるELFの観測網なしには、それらの有効性も検証することは難しい。

(KIT)


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