SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 10

「77Kでも強いピン止め力 」 Nd123単結晶で実証:13.4T の不可逆磁場 〜 カールスルーヘ大

 ドイツのカールスルーヘ(Karlsruhe)大のTh.Wolf, H. KuepferらはNd123 単結晶で77K において13Tをこえる不可逆磁場が得られたことを、5月27〜29日北九州市で行なわれた8th IWCCで発表した。
 単結晶はNd-Baの固溶をおさえるため、低酸素雰囲気中(60mbar Air-Ar)で成長させたもので育成後、1bar O2中で600℃〜350℃、1000時間酸素アニール処理を行ない、さらに175bar高圧酸素中で480℃〜280℃、300時間アニールを行なった。得られた試料のTcは96Kである。
 図1に不可逆磁場(Birr )の温度依存性を示すが、78.5Kで12.1Tの不可逆磁場が得られており、77K、13.4Tという値は高温からの外挿値である。このような非常に高いBirr値はtwin structure によってvortexがピン止めされ、Bose- glass的になっているためだと、彼らは説明している。高圧酸素アニールが必要である理由は、ポイントピンである酸素欠損を減らし、ピンとして働くのがtwinだけだという状況にし、よりBose-glass 的にするためだという。
 なお、Jc-B曲線にはダブルピークがあり、(零磁場付近にみられる通常のピーク以外に)、双方ともピーク磁場には温度依存性がみられた。低磁場側のピークはH//cでしか現われないことからtwin構造に起因していると彼らは主張している。また、高磁場側のピークは点欠陥によるものだという。ちなみに77KでのJcの値は4.6Tで3.5×104A/cm2である。
 Nd123系についてはNd3+とBa2+のイオン半径が近いために空気中で作製すると、NdイオンがBaサイトに固溶してしまい、Tcが低下してしまうという問題があった。しかし約 2年前に超電導工学研究所の第7研究部(村上雅人部長)の劉相任研究員らが低酸素分圧下で溶融成長させる手法(OCMG法)により高いTcを示し、かつ従来のY123系よりはるかにすぐれたピン止め特性を持つ材料開発に成功して注目を集めた(S.I. Yoo et al., Appl. Phys. Lett. 65 (1994) 633)。
 この強いピン止め力はNdとBaの固溶に起因する新しいピン止めセンターが導入されたためだと考えられている。その後、同研究所第1研究部(腰塚直己部長)の江木俊雄研究員らが低酸素分圧下TSFZ法によって育成した単結晶で1TでJc = 70,600A/cm2(77K)を達成し、またTEM観察の結果、結晶中に20-50nmのサイズの固溶領域が存在することが明らかになった。(T. Egi et al.,Appl. Phys. Lett. 67(1995)2406)
 また最近、同研究所第4研究部(塩原融部長)の中村優研究員らがスピノーダル分解を利用した新しいタイプのピン止め中心の導入起源を提唱している(本誌先号参照)。これらはピン導入の手法は異なるがいずれもNd-Baのsolid solutionが存在することを利用したものであり、Wolfらのアプローチは全く新しい方面からのものであるといえる。                       

(ぽんちゃん)


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