SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 8

Bi2212テープ材の新製法 〜 大阪工業技術研究所

 国立大阪工業技術研究所は通産省工業技術院産業科学技術研究開発室の推進する国家プロジェクト「高電流・高磁界超電導材料評価」において高臨界電流密度(Jc)を有するBi2212テープ材の開発研究を行なっているが、この程従来の部分溶融法とは異なる手法により、4.2K磁場中で105A/cm2を超えるJcを有するテープ材の作製に成功した。
 今回、開発された製法は等温雰囲気制御法というもので、溶融と結晶化を等温で、炉内の酸素分圧制御により行なう。つまりBi2212相の融点は酸素分圧の増加とともに上昇することを利用し、Bi2212結晶を溶融後、酸素分圧を増加させ、結晶化を行なう方法である。この方法はR.D.Ray II らによって報告されているが(Physica C 251 (1995) 1)、105A/cm2を超えるJcを有するテープ材は作製されていなかった。同所でもこの報告以前から等温雰囲気制御法によるテープ材の試作を行なっており、今回4.2K、0Tで3.0 ×105A/cm2、8Tで1.0×105A/cm2のJc を有するテープ材が作製された。
 Bi2212相は分解溶融系であるため、溶融によりBi free相等の結晶相とBi rich な液相に分解する。その後、徐冷もしくは酸素分圧増加によりこれらの結晶相と液相が反応し、Bi2212相が析出、結晶成長する。高Jcを有するテープ材を作製するためには、Bi2212 結晶の粒径を大きくする必要がある。このためには溶融時に生成した結晶の粒径を大きくすればよく、溶融温度が高いほどBi free 相等の結晶粒径は大きくなる。しかし、粒径の大きな結晶を液相と完全に反応させるためには長い結晶化時間が必要となる。そのため、従来の徐冷による結晶化法ではこの反応が完了する前に炉内温度がBi2212生成温度以下になり、Bi free 相等が不純物として残留してしまう問題があった。一方、等温雰囲気制御法では炉内温度をBi2212生成温度で長時間保持できるため、不純物の残留がなく大きな粒径を有するBi2212結晶からなるテープ材ができる。
 逆に、保持温度を低くすれば Bi2212 結晶粒径を小さくすることができ、テープ材のJcは低下する。具体的な作製例として、Bi2212 結晶を窒素雰囲気中、830〜865℃で溶融し、雰囲気を酸素分圧20%に変え結晶化を行なった。その結果、保持温度が高くなるに従い、Bi2212 結晶の粒径は大きくなり、Jc も向上した。865℃で作製したテープ材のJcは4.2K、0Tで3.0×105A/cm2であるのに対し、830℃で作製したテープ材のJc は1.8×105A/cm2であった。保持温度が830℃のときは6時間の結晶化時間で不純物のないテープ材が作製できた。
 一方、865℃のとき6時間の結晶化時間で作製されたテープ材では不純物が多く残留しているためゼロ抵抗を示さず、24時間の結晶化により上記のJcが得られた。このように保持温度の上昇により、Bi2212 単相のテープ材を得るために必要な結晶化時間が長くなるのは、保持温度による溶融時の微細組織の違いに原因がある。  同所の舟橋良次技官は「等温雰囲気制御法では保持温度あるいは結晶化時間 によるBi2212 結晶の粒径制御や残留不純物量制御が可能で、その結果テープ材のJcを105〜105A/cm2の範囲で制御することができる。そのため高Jc を必要とする高磁場発生マグネットを始め、用途により最適のJcもしくはIcを有するBi2212 テープ材の作製が可能になる。今後はこの方法による数十メートル級のテープ材作製が目標である」とコメントしている。       

(ア・ソーダ)


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