SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 4

c-軸方向抵抗の半導体的温度依存はスピンギャップのため 〜 NTT 基礎研がビルトインジョセフソン接合測定より提唱

 層状構造を有する高温超伝導体の層をよぎる c-軸方向の電気抵抗が、キャリアのド−プ量が少ない(アンダ−ド−プ)領域で半導体的に超伝導臨界温度に向けて増大する効果は、多くの高温超伝導物質において共通に見られ、その真否(真性な性質かどうか)と起源とは高温超伝導メカニズムの議論とも密接な関係があるものとして注目されていた。NTT 基礎研究所(東海村)の鈴木実、日高義和、田辺圭一、狩元慎一、滑川和一氏らは Bi2212 系高温超伝導体で面積・厚みともに微細な領域を選び出し、そのc-軸方向の電流−電圧特性における非線形性を測定することによって、この奇妙な半導体性がスピンギャップによるものであると主張する論文をこのほど提出し、受理された。これにより、高温超伝導の謎の一つがまた解けることになったといってよいと見られる。
 図1は18 層の(CuO2)複層を含む厚み27 nm、面積20×20 mm2 の Bi2Sr2CaCu2Cu8単結晶の c-軸方向の抵抗を3端子法により電流100 mA で測定したものである。300Kでの抵抗率 rc は37 Wcm に相当する。180 K付近まで金属的に減少してきた抵抗がそれ以下の温度で半導体的に上昇する「問題の挙動」が見られる。彼らはこの素子の電流電圧特性をTcより高い温度まで測定したところ、図2に見られる典型的な非線形性を見いだした(84.7 K)。本試料では非線形性は 低温ほど顕著であったが、180K 以上で消失。これは半導性の現れる温度と一致した。半導体的な抵抗上昇は小さな電流密度でのみ見えるもので、大きな電流密度では抵抗は温度によらず一定であった。非線形性の現れる電圧から、接合1個当り25-50mV程度の擬ギャップがフェルミ面付近に生じていると仮定するとすべての結果が系統的に理解される。
 彼らはこの擬ギャップが、現在議論の的となっているいわゆるスピンギャップ(本号次の記事参照)と対応することから、c-軸方向抵抗の半導体的温度依存はスピンギャップによるものと結論した。これにより、日本の超伝導メカニズム研究グル−プが強く提唱しているスピンギャップの存在とその効果がまた一つ明瞭な形で支持されたことになる。c-軸方向の抵抗の異常については最近の超電導工学研究所田島節子氏による解説を参照されたい(固体物理誌)。
なお、本研究は論文として Jpn. J. Appl. Phys. に近く刊行される予定。

図1

図2

(PKK)


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