SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.3, July 1996, Article 3

ヘリウムレス磁石シンポジウム開催さる 〜 低温工学協会

 低温工学協会の超伝導応用研究会は6月20日東京大学工学部講堂において冷凍機伝導冷却超伝導磁石に関するシンポジウムを開催し、また実際に利用している研究室の使用状況を見学した。
 まず東大北沢宏一教授は、ヘリウムレス型磁石について、化学や生物、金属などのユ−ザ−によって、現在どのように使われ、将来どのような使われかたが予想されるか、従来の超伝導磁石ユーザーとは別の面での利用の可能性を述べた。すでに化学や生物などのプロセスにおいて、これまで考えたことのない種々の磁場効果が見られ始めているという。 また同教授は「液体ヘリウムを使い慣れた人でも、ヘリウムレスを使い始めると、もはやヘリウム型はなるべくさわりたがらない」と感想を述べ、ユ−ザ−にとって液体ヘリウムを必要としない磁石が、実際の利用時にどれだけ便利であるかを強調していた。
 ついで、このような形式の磁石の開発初期の経緯について日大理工学部の松原洋一教授から紹介があった。同氏は、30−40Kの冷却ですむ場合には冷凍機を1段型とすることができ、低温での可動部が無いため、冷凍機にとっては非常なメリットとなること、20K冷却では2段型になるが依然メリットが大きく、4K 型はややペナルティ−が大きいという印象。
 住友重機の桜庭順二氏は、同社が1991年より伝導冷却方式に取り組んだ経緯を述べた。パワ−リ−ドに関しては、接触抵抗は1マイクロオーム以下で、77Kから20Kの熱流入も1.3Wに抑えられた。冷凍機が止まった場合の5分間の温度上昇は10K→14K程度であるという。同社では、すでにX線回折用のスプリットマグネットなど、冷凍機直冷型のメリットを生かした複雑形状の磁石の開発も行なう一方、2つの冷凍機を用いた、室温ボア径220mmの5T磁石も開発している。同社で製造中、もしくは受注済みの冷凍機直冷磁石は20台以上であるとみられる。
 東芝の中込秀樹氏は、磁性蓄熱剤 Er3Ni を用いた4K型冷凍機の開発において、1W以上の出力達成の経緯について紹介した。さらにこの冷凍機を用いて、1995年に磁気シ−ルドを持つ、100 mm 室温ボア径磁石で 11.7 T 発生を成功させた経緯に触れた。また、磁場によって影響を受けにくい、磁化の小さな HoCu2 蓄熱剤の開発が伝導冷却型磁石の信頼性向上に果たした役割について述べた。なお、同氏によると、初期冷却に要する時間をさらに短縮するためには、極低温で60倍もの熱伝導性を示すというル−プ型ヒートパイプが有効という。
 三菱電機の横山彰一氏は高エネルギ−研究所に同社が納入したクライストロン用のビーム収束用冷凍機直冷磁石について紹介した。同社の磁石は同社が開発した磁性蓄冷剤を用いない三段型GM冷凍機を用いるもので、すでに1万時間以上のメンテナンスフリ−が証明されている。冷凍機が止まった場合にも、5時間までは磁石はクエンチしない。同氏は伝導型磁石の製造側のメリットとして、1)液体ヘリウムを使わないためにクライオスタットでよくトラブルの原因となるコ−ルドリークの問題が起こらない、2)熱設計が容易になる、3)耐電圧が高い、4)配管がないために対流による熱リークが起きない、5)低温部の汚染が進行しない、といった点をあげた。この種の磁石は計画中の加速器JLCでは 1000 台も需要があるという。
 日立機械研の佐保典英氏は、霞ケ浦などで問題となっているアオコの磁気分離について、同社のデモンストレ−ションを紹介した。これは、湖水を化学処理して磁性体とともにアオコを凝集させ、磁気フィルターを用い、分離したもの。冷凍機直結型磁石を用いることで、船上での処理が可能になる。同社の用いた冷凍機は J-T (Joule-Thomson)回路を用いており、熱出力が大きいことが特長。鉄とアルミの処理剤を用いて1日10トンの処理能力がある。
 GE 横河メディカルシステムの星野和哉氏は GE 社が発表している 10 K 型の冷凍機直結型磁石を用いた2つの種類の MRI について紹介した。一つは手術などを MRI を見ながら行なうことのできる 0.5 T 型で、同社ではこれを MRI ではなく MRT (MR therapy) と呼んでいる。MRTは2台の冷凍機を使い、大きくスプリットした作業空間があり、医師が患者に触ることができる。これにより、カテーテルがどこまで差し込まれたかを見ながら作業することができ、検査や手術の安全性を高めることができる。 第二は小型の局所診断用 MRI で、鉄芯を使う0.27Tタイプ。これは小型簡便MRI を狙うもので、SCOT(SuperConducting Open Technology) と呼んでいる。
 住友電工の林和彦氏は、同社が開発を進めているオ−ル高温超伝導冷凍機直結型磁石の紹介を行なった。4K型小型冷凍機の熱出力が 1.5−2W であるのに対して、20K 型では15−20Wもあることのメリットを述べた。すなわち、4K型に比較するとはるかに大型の磁石を冷やすことができ、あるいは熱発生を伴う応用、例えば、急速励磁・減磁などにも対応できる。同社では 500m 程度の線材であれば Jc = 2万A/cm2 級 (77K) のものを作製できるようになってきており、20K, 10T では Ic が 1000A を越すテープ作製も可能となっているとされるので、数テスラを越える冷凍機伝導冷却高温超伝導磁石の出現は今年中との周囲の識者の見方も現実的と思われた。また、同氏は大型大電流容量の超伝導磁石も冷凍機直結型で可能との見方を述べた。
 この後、初期冷却の時間短縮に対する考え方、ヒ−トパイプの利用のメリットなどが討論された。 次回の冷凍機部会シンポジウムは9月13日。電力中央研究所横須賀研究所で超伝導限流器の見学会を含む。

(飯山) 


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