SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 15

高温超電導10周年記念国際ワークショップ参加報告

 10th Anniversary HTS Workshop on Physics, Materials and Applicationsは3月12日〜16日の5日間にわたり、Doubletree Hotel at Allen Center, Houston, Texasにて開催された。ワークショップでは10件のplenary talkに加え114件の口頭発表及び131件のポスター発表があり、参加者は372人にものぼった。内容も超電導の基礎理論から応用まで多岐にわたり‘10th Anniversary’を飾るのにふさわしいワークショップであった。
 以下 HTS Materials, Bulk Applications, HTS Processing, Properties, Vortexの各分野について特に印象に残った発表について報告する。
  1. HTS Materials  Materialについては一連の高温超電導体(HTS)発見の発端となったLa-Ba-Cu-Oの発見者であるK.A. Mullerと、初めて液体窒素温度(77K)を超えるTcを示し超電導フィーバーをひきおこしたY-Ba-Cu-Oの発見者であり、また、最近、水銀系酸化物超電導体において高圧下で164Kという過去最高のTcを報告したC.W. Chuの両者がplenary talkを行いHTS発見前夜から現在にいたるまで当時の裏話も含めたreviewをおこなった。
     Concurrent sessionではY.Y.Xue(TcSUH)、J. Shimoyama(Univ. of Tokyo)が水銀系超電導体について報告をおこなった。発見当初水銀系超電導体は合成が困難な上にすぐに劣化してしまうということが問題となっていたが、Shimoyamaらによると、Reを添加することでその問題点が克服されるばかりか、c 軸方向の導電性が高められかなりよいピン特性が得られるということである。B. Raveau(Caen)はCO3基を含むある基本構造をもとに上下にずらしたりintergrowthさせたり等によっていろんな新物質ができることを示した。
     K. Kitazawa(Univ. of Tokyo)はHTSの磁気特性について"異方性"(あるいはCuO2面間距離)をパラメーターとして整理し、いかに異方性がピン特性を初めとする各種物性と密接に関わっているか示した。そして不可逆磁場等のピン特性向上のためにはインターカレーションなどの化学的手法によってキャリアドーピングをおこなって面内の導電性を高めることが必要であることを指摘した。
     HTS以外ではM. Takano(Kyoto Univ.)は最近注目を集めているSpin Ladderについて、Y.Maeno(Hiroshima Univ.)は非銅系層状ペロブスカイト酸化物で唯一超電導を示すSr2RuO4について、R.J. Cava(Bell lab.)はBorocarbideについてそれぞれ紹介をおこない、参加者の興味をひいていた。
    以上マテリアルの分野では日本人の活躍が目立っていた。
  2. Bulk Applications  A.P. Malozemoff(ASC)、A.F. Bolza(Pirelli)及D.T. Shaw(SUNY Buffalo)はHTSケーブルについて、D. Driscoll(Reliance Electric/Rockwel)、D. Gubser(NRL)はHTSモーターについて、E.M.W. Leung(Lockheed Martin)HTS限流器の開発状況の報告を行った。唯一フライホイールに関する報告を行ったW.K. Chu(TcSUH)が非企業からの発表であったが、いずれもDOEのプロジェクトでの開発を行っており、この分野に米国がかなり力を入れていることがよくわかった。
  3. HTS Processing  K. Sato(Sumitomo Electric Industries)らはビスマス系テープ線材の開発状況を報告し、それを用いたHTSマグネット(60mmΦ)で77Kにて0.6T、20Kで3Tの磁場を発生させることに成功したことを発表した。また、高電流テープについては臨界電流が4.2Kにおいては15Tの磁場下で1380A、77Kでは1Tの磁場下で91Aであることを報告し実用レベルに十分達していることを印象づけた。
     N. Chikumoto(ISTEC-SRL、Div7)はQCMG法によるNd123バルク体作製の最近の状況について報告を行い、プロセスの最適化によって第2相のサイズを微細に制御したことにより低磁場側でのJc がかなり向上したことを発表した。また、本系ではY123より低温まで酸素欠損が存在することからより低温までのアニールが必要であることを指摘した。
     また、同じくISTEC-SRLのY. Shiobara(Div.4)は引き上げ法によってNd123の良質の単結晶を作製したことを報告し、また、熱処理によって高磁場にて有効な新しいタイプのピン止め中心を導入することに成功したことを発表した。これは500℃でアニールをおこなうことによってスピノーダル分解がおこり、その組成のゆらぎに対応してJc にマッチングピークが生じるというものである。
     R.L. Meng(TcSUH)らは水銀系のテープ線材の作製に成功したことを報告した。水銀と基質との反応をおさえるためにNiテープ上にCrのバッファー層を置きその上にHg1223をのせるという工夫をおこなっており、Jc は〜2.5×104A/cm2であった。
  4. Properties  M.P. Maleyがプロトン照射によってSplayed Columnar TrackをBi系線材に導入することによって77Kにおいて100倍近くJc が向上することを報告した。しかしながらそのような理想的なピンを導入しても窒素温度ではY系には及ばないことからBi系はだめだという悲観的なコメントもしていた。
  5. Vortex  G.W. Crabtree(Argonne)が、YBCOについて磁束格子融解が起こっていることが、磁化測定とトランスポート測定の双方の結果から明らかになっていることを示した。それに関してはConcurrent sessionでE. Zeldov (Weizmann Inst.)がBi2212の磁化測定、Poster sessionでH. Ikutaら(Univ. of Tokyo)がBi2212のトランスポート測定結果からBi2212についても同様に磁束格子融解転移が見えていることを報告している。また、Crabtreeは超電導体中のボルテックスの動きについてコンピューターシュミレーションを行いplasticとelasticの2種類のflow regimeがあることを示した。

    (ぽんちゃん)


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