SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 14

「高温超電導コイル」シンポジウム開催さる

 超電導応用研究会/材料研究会合同によるシンポジウム(1996.2.23)が金属材料技術研究所で行なわれた。メインテーマは高温超電導コイルということで各方面から多角的な取り組みの現状について報告があった。
 湘南工科大学の荻原宏康氏の「応用面から眺めた高温超電導コイル」という講演は、新技術の開発初期段階の問題点をいろいろ指摘しているが、要するに「もっと積極的に高温超電導コイルを数多く作って、種々の観点から新しい応用と結び付けて研究を進めるべきである」という主張であるように思えた。金属系超電導材料の開発初期段階の困難を熟知している同氏の主張には耳を傾ける必要がある。
 住友電工の佐藤謙一氏の「高温超電導コイルの開発」は同社の手掛けた銀シース法Bi2223テープ線材による各種のマグネットの紹介を行なった。銀シース法61芯Bi2223テープ線材をR&W法で巻き込み、冷凍機冷却で運転する、室温ボア系40mmφのマグネットは、77K で0.66T、20Kで3T、4.2Kで4Tの磁場発生に成功した。このマグネットはすでに1年以上、問題なく運転され、実験に使用しているとのことである。また、MITの大口径ハイブリットマグネットの22.54Tのバックアップ磁場中に巻き線内径40mmのマグネットを組み込んで、4.2K運転 で1.46Tの追加磁場発生に成功している。その他、コイルの話ではないが、Mnを銀に添加し、内部酸化により分散強化した合金をシース材として使ったBi2223系線材で、優れた超電導特性と200MPa以上の電磁力に耐えうる優れた応力特性が得られることを報告した。Bi2223系線材およびコイルではもっとも豊富な経験をもつ同社の実力が感じられる充実した報告であった。
 金属材料技術研究所の井上廉氏の「金材研における高温超電導コイルの強磁場応用」は同研究所のディップコート法によるBi2212線材コイルや銀シース法Bi2212線材コイルの話と、1GHzNMRスペクトロメータの開発計画とそれに付随した高温超電導コイルの開発計画の話であった。最も興味深いのは、酸化物超電導コイルのコンペの結果の一部が公表されたことである。コンペの内容は(1)パンケーキ巻きで高磁場発生を狙う高温超電導コイル(2)ソレノイド巻きで高均一磁場発生を狙う高温超電導コイル(3)永久電流スイッチと組み合わせた高温超電導コイルの3種類で5社に発注し、金材技研の有効内径61mm 、発生磁場21Tの金属系超電導マグネット中で試験を行なうという内容であった。まだ、半分程度しか、試験がすんでいないとのことであるが、高温超電導コイルの実用性を実証する重要なデータがいくつか公表された。
   鈴木商舘の大久保博司氏による「米国における高温超電導コイルの開発」という講演では米国政府機関からの資金援助を受けている各種の計画の全体像が示された。米国の計画がようやく本格的に動きだしたことが感じ取れる講演であった。個人的にはロスアラモス研究所で進められている磁気分離マグネットの開発計画の話が面白かった。
 東芝の岡田秀彦氏の「高温超電導コイルのMRIへの応用」 はMRIの雑音の主原因であるRFコイル抵抗を超電導体化することで抵抗を減らし、感度を上げようとする研究の報告である。従来、薄膜状のY-123系、またはTl-2211系でコイル作製が試みられており、RFコイルの性能を示すQ値で数千から数万の値が得られている。この値は、銅製RFコイルのQ値が数百なのに比べ、はるかに優れている。このためMRI に必要な磁場を数百ガウス程度に引き下げることが可能となる。ただし、従来の薄膜状の高温超電の厚膜を生成させたテープをR&W法でコイルにまきこんで大型のRFコイルを作製し、液体窒素温度で動作させ、実際に鮮明なMRI像を得ている。結果としてS/N比は通常のRFコイルを使った場合に比べ、1.6倍に改善された。このようにMRI用RFコイルは極めて有望な高温超電導コイル応用であることが明らかにされた。このような新しい高温超電導コイルの応用が今後、さらにでてくれば、一気に超電導応用が活発になることが期待できる。そのほか、数名のコメンテータの参加によるパネルディスカッションが行なわれ、技術の現状、将来展望に関して活発な意見交換が行なわれた。
 以上、筆者のつたない知識に基づく独断に満ちた会議報告であるが、60名近い参加者による活発な討論が行なわれ、有意義なシンポジウムであったと思う。      

(つくば I 生)


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