SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 13

新しいピン止め中心の導入法 ・スピノーダル分解 〜 超電導工学研究所

 超電導工学研究所の第4研究部(塩原融部長)の中村優研究員らは、Nd1+xBa2-xCu3O7-d単結晶超電導体で新しいタイプのピンニングセンターの導入起源を提唱した。内容はこの3月にHoustonで行なわれた10th Anniversary HTS Workshopにおいて発表され、Nd1+xBa2-xCu3O7-d単結晶超電導体において、ある温度域においてスピノーダル分解がおこり、その分解した相がピンニングセンターとして機能するというもの。これは、いままでのピンニングセンターの制御とは全く異なる新しい発想である。従来のピンニングセンターを導入方法は、例えばYBa2Cu3O7-d(Y123 )系ではY123 溶融凝固時において、非超電導相(Y211)を微細分散させるというものであった。しかし今回の新方法は、結晶成長後の熱処理のみによって、ピンニングセンターを導入することも、導入しないことも可能になるとしている。従来の熱処理は酸素導入及び、燒結目的であったことから、非常に興味深い新プロセスと考えられる。
 実験に使用された試料は、1%酸素分圧下において成長させたNd123単結晶である。このNd123単結晶は、Nd2O3坩堝を使用し、Top-Seeded Solution-Growth(TSSG)法を用いて育成された。得られたNd123単結晶の組成比はNd:Ba:Cu=1.01:1.97:3.00であり、X線構造解析の結果では、Nd1Ba2Cu3O6構造となり、NdとBaとのサイト間の置換による組成変動は測定誤差内であった。このNd123単結晶を切り出し、種々のシリーズの純酸素熱処理が施された。熱処理後、試料はSQUIDにより、磁化外部磁場特性を測定された。
 初めに通常の酸素導入熱処理(340°C、200時間)を施したときの磁化温度依存性と、臨界電流密度外部磁場依存性をそれぞれ図1、図2に示す。図1より超電導転移温度は96K程度であり、転移幅も約1Kと非常に狭いことがわかる。また、図2より臨界電流密度はピークを有していない。
 一方、2段熱処理(500°C 、100時間後、340°C、200時間)を施したときの磁化温度依存性と臨界電流密度外部磁場依存性をそれぞれ図3、図4に示す。この場合、図4より、c //Hの場合においてのみ、ピークを有していることがわかる。この500°Cの熱処理において、スピノーダル分解が生じ、分解した相がピンニングセンターとして働くということが、今回提唱された。また、スピノーダル分解挙動に関してはファインセラミクスセンター(JFCC)との共同研究および、(株)TOPCONの技術者の協力のもと、1nmの分析精度のスポットライン分析が行なわれた。図4のようにピークを有している試料に対しては Nd / Baの組成比で最高2.0から最小0.75の組成偏析の波長約30〜50nmでWavy な濃度分布が確認されている。今後、熱処理温度、時間及び雰囲気酸素分圧を変化させた実験により、さらに詳細なメカニズムが判明するものと期待されている。     

図1                      

図2

図3

図4

(M.Chang)


[ 前の号へ] 前の記事へ| 目次へ| 次の記事へ| 次の号へ]