SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 11

500kVA液体窒素冷却超伝導変圧器の試作に成功 〜 九州大学・富士電機株式会社

 九州大学工学部附属超伝導科学研究センターの船木和夫教授と岩熊成卓助教授は、九州大学に平成7年度より設立されたベンチャービジネスラボラトリーの活動の一環として超伝導技術の一般産業への実用化を目指し、富士電機株式会社と共同でビスマス系酸化物超伝導線を巻線に用いた液体窒素冷却の定格容量500kVAの単相超伝導変圧器を試作し、平成8年4月1日までに行なった一連の特性試験において、設計どおりに動作さすることを確認した。
 超伝導変圧器の定格は電圧が一次6600V、二次3300V、電流が一次76A、二次152A、インピーダン電圧が0.67%である。効率は液体窒素の冷却効率を20倍として換算しても、99.1%であり、電力用としては小さな容量であるにもかかわらず、従来の同容量の変圧器と比較して1%以上、向上した。定格電流のピーク値は超伝導導体の臨界電流値に相当している。500kVAという変圧器容量は一般家庭に換算すると120軒から160軒の消費電力に相当する。九州大学超伝導研究グループの長年にわたる超伝導体の電磁現象に関する成果と、富士電機が営々と培ってきた電力用機器製造技術を新システムへいち早く対応させうる柔軟性ある技術力、および日本の酸化物超伝導線材製造技術が融合した結果であり、酸化物超伝導体を電力用機器に応用した世界初の快挙である。

構造の詳細

 試作した超伝導変圧器は、室温空間の積層鉄心の周りにクライオスタット(低温真空容器)に格納された超伝導巻線を持ち、巻線空間に液体窒素を充填して使用する構造である、超伝導線材としては高温超伝導多芯線を使用し、今回独自の導体構造を考案、採用した。用いた巻線方法は基本的に従来の変圧器と同じものである。二次巻線には一次巻線に用いた導体を2並列にしたものを採用した。

動作確認の詳細

 変圧器の動作確認試験として、無負荷試験(一次側を開放して二次側に定格電圧を印加)を30分、短絡試験(二次側を短絡して一次側に定格電流を印加)を2時間半行ない、さらに絶縁検証として耐電圧試験(一次側10.3kV、二次側5.18kV)を行なって設計どおり動作することを確認した。実負荷試験としてはリアクトルを負荷として、376kVA(一次電圧5.7kV、一次電流66A)までの動作を確認した。これは学内の電源系統から制約を受けたものである。

電力系統内における超伝導変圧器の導入意義

 現在、都市部では地価の高騰、環境、景観問題等により送電ケーブルや変電所は地下に設置される場合が多い。地下変電所では防災上の観点から、通常の絶縁油を用いた変圧器の代わりに、不燃性のSF6ガスを絶縁、冷却材として用いたガス変圧器が用いられている。しかし、SF6ガスの絶縁耐力および冷却能力は絶縁油に比べて低いため、ガス絶縁変圧器は同容量の油入の変圧器と比較して体積で1.5〜2倍の大きさとなっている。これに対し、超伝導変圧器では不燃化と同時に体積を輸入変圧器の30%程度にまでコンパクト化することが可能と考えられる。すなわち、現状の設置空間のまま変圧器を超伝導化するだけで変電所容量を数倍に増大することが可能であり、将来の電力需要の増大に対応できる。

超伝導変圧器の従来の研究

 超伝導科学研究センターでは従来のNbTi線材を用いて1987年4月14日に72kVA、1991年4月23日には東芝・昭和電線電纜と共同で570kVAの超伝導変圧器を開発した。他にもNb3Sn線材を用いて関西電力・三菱電機が開発した712kVA相当の通電試験などが挙げられるが、いずれも液体ヘリウム冷却方式のものであった。酸化物超伝導線を用いた超伝導変圧器としてはABB社(スウェーデンのAsea社とスイスのBBC社が合弁してできた他国籍企業)と米国のアメリカンスーパーコンダクター社が630kVA器の開発計画をすでに発表しているが、まだ完成の報告はなされていない。
 本センターでは72kVA器の試作以後、従来の金属系撚線型超伝導線材を想定して、地絡事故時の超伝導変圧器のクエンチ保護や超伝導変圧器の雷サージに対する応答特性、さらには超伝導線材自体の安定性などについても地道な研究を進めてきた。その中で我々は、液体ヘリウム冷却方式(実際には超臨界状態にして用いる)では、実用化に際し、超伝導線材の安定性が極めて低いことや、絶縁耐力の問題等、さまざまな難問が山積していることを痛感してきた。

液体ヘリウム冷却と液体窒素冷却の違い

  1. 冷媒が液体ヘリウムから液体窒素になることにより、冷却コスト(冷却に要する電力)は大きく低減される。ヘリウム冷凍機では、1Wの発熱に対し、これを冷却するために300〜1000Wの電力が必要であったものが、液体窒素では10〜20Wでよい、すなわち冷却に要するコストは数十分の一に減少する。
  2. 液体窒素冷凍機の価格は液体ヘリウム冷凍機と比較して約十分の一である、すなわち、冷媒の冷却装置に要する初期設備投資は大幅に削減される。
  3. 電力機器を超伝導化するには、 少なくとも現在の電力機器と同等か、それ以上の効率を確保することがまずは必要である。  従来の液体ヘリウム冷却の超伝導線の場合には、交流損失を低減するために超伝導フィラメントの直径を0.5ミクロン以下にツイストピッチを1〜2mm以下に、常伝導母材は高抵抗CuNiにしなければならなかった。このため、超伝導線材は直径が0.1〜0.2mm程度になり、一本あたりの電流容量は小さく機器に適用するには多重の撚線構造(例えば7×7×7本)にせざるをえなかった。その結果として撚線構造に付随する新たな交流損失の発生のみならず、様々な電磁気的不安定性を引き起こし、3重撚線では臨界電流の半分程度の電流しか通電できなかった(半分程度の電流でクエンチが発生(超伝導状態が破れる)していた)。
     これが液体窒素冷却になると、超伝導体が発生する交流損失の許容レベルは冷却効率が向上する分だけ大きく緩和される。すなわち超伝導フィラメントの直径は数十ミクロンでよく、また、線材が現状のビスマス系線材のように平角型であれば、銀母材の抵抗率を合金化して一桁向上させることによりツイストピッチは10mm 程度でよい。よって酸化物超伝導線材を液体窒素温度領域で使用する場合、今回の試作に用いているレベル以上の細線化を行なう必要はなく、製造工程は大きく簡略化される。また、今回採用した導体構造では素線間は電極以外では絶縁された構造となるため、撚線構造で発生した素線間結合損失の増大、電磁気的不安定性は生じない。
  4. 動作温度が液体ヘリウムでは4〜5K付近であったものが、液体窒素では67〜77Kと高くなることにより、超伝導線材の熱容量は1000倍近く増大し、熱的、機械的擾乱に対する安定性は大幅に向上する。

用語説明

将来展望

     
  1. 超伝導線材について  今回用いた酸化物超伝導線材の母材は純銀であり、機械的強度が幾分不足しているため、今回の巻線は変圧器と超伝導コイルの製造に携わっている熟練工が細心の注意を払って行なった。しかし、線材の機械的強度を向上させれば、巻線構造は基本的に従来の変圧器と変わらないため、通常の変圧器メーカーでも十分に製造が可能であると考えている。酸化物超伝導線材の単価は、現在はまだ開発途上ということもあり、かなり効果であるが、将来大量生産されるようになれば、原材料費は安価であるため、妥当な価格設定が可能である。機器ベースでも超伝導化による”同じ設置スペースでの大容量化が可能である”等の付加価値を考えれば、十二分に現行の変圧器と渡り合えるものと考えている。  
  2. 高電圧化について  高電圧化の研究は今後の課題であるが、77Kの液体窒素を大気圧のまま過冷却状態(67〜68K)にすることにより、その絶縁耐力は従来の絶縁油の規定値と同等レベルで確保できる。過冷却窒素の絶縁耐力はSF6ガスよりは十分に高く、超伝導巻線は銅線よりも数十倍も高電流密度化されるため、高電圧化を図っていく場合でも超伝導変圧器は従来の油入変圧器に比べ、コンパクト化が可能である。
  数か月後には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託研究により、メインテナンスフリー化を目指して、さらに本装置にクローズドサイクル型過冷却液体窒素供給装置を追加し、このシステムの実証試験を行なう予定である。 本研究の成果については、5月20日から24日まで北九州市国際会議場(小倉北区、小倉駅北口徒歩5分)で開催される大16回国際低温工学会議/国際低温材料会議(ICEC16 / ICMC)で発表し、変圧器本体もIndustrial Exhibition会場(国際会議場横の西日本展示場)にて展示する予定である。

(仁輪加)


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