SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 10

複雑形状QMGの製造方法開発 〜 新日鉄バルク高温超伝導体でコイル

 新日鉄 先端技術研究所 新材料研究部の森田充氏らは、3月末の応用物理学会のシンポジウム「超伝導応用の現状と将来」の中で、コイル形状や文字形状といった複雑形状を有するQMG の製造法を開発したと発表した。QMG(クエンチ・メルト・グロウス)法は同社がが123系高温超電導体の強力ピンニング材を作る方法として開発したもので、これまで棒や、ディスクなど塊状のものしかつくれないと考えられていた。
 Y系QMGバルクといえば、種付け法により結晶方位が制御された円柱状の材料というイメージが強い。応用研究がかなり進んでいる磁気浮上分野ではほとんど円柱状で使用でき、また電流リードでは棒状でよく、形状付与は比較的容易であった。しかし最近では応用研究が進むにつれ種々の形状を有する材料の開発を行なう必要がでてきている。今回の複雑形状付与技術の開発は、従来の応用分野でのこのような要請に応えるためと、QMGによるコイルやシールド材といった新しい応用分野への展開を行なうためのもの。
 今回開発された製造方法は基本的には改良型QMG法(Physica C 235-240 (1994)209-212参照)であり、半溶融させる前の粉末成形体に形状を付与することが特徴。この製造方法により直径1mm程度の細い穴を多数(248個)有する材料(写真1)や表面に文字形状の凹凸を有する材料(写真2)、さらには線の断面が約3mm ×4mmの7回巻きのコイル形状を有する材料(写真3)が製造できることを示した。
 また、銀の電極を有するコイル形状のQMG2枚を渦巻きの方向が逆になるように積層し、内側の電極をハンダ付けしたコイルマグネットを試作。77K で300A通電し、中心部で0.177Tの磁場発生を確認したことを報告した。さらに、より精密な加工法により、線の断面が2mm ×2mm、12回巻き、内径20mmのコイル状QMGが製造できた場合、これを25層重ねることによって、500A の通電で中心磁界が2Tになることを計算により示した。
 森田氏によれば「種々の形状を有するQMGが作れることを多くの研究.開発者に知ってもらい、今まで知られていない分野での応用研究が開始されることを期待している。また、液体窒素冷却で使えるQMG超伝導マグネットも可能であると考えている」とのこと。同社では精密な形状付与技術についても今後さらに開発を進める方針。      

写真1               

写真 2             

写真 3

(夢工房)


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