SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 7

米国で次世代高温超電導線材開発チーム形成への動き盛ん 〜 金属テープ上 YBCO薄膜線材の開発2グループ発足

現在、ビスマス系線材が高温超電導線材としての開発の先頭を走っているが、液体窒素温度では1〜2テスラ以上の磁場のもとでは使い物にならないだろうとされている。これは30K以上でビスマス系高温超電導体のピン止め力が急速に劣化するためで、この物質が有する強い異方性のために解決は難しいと考えられている。
最近、金属テープ上に厚膜を析出させて線材を作ることを意図した、フジクラ法(IBAD: Ion Beam Assisted Deposition)、あるいは、ラビット法(RABiTS: Rolling-Assisted Biaxially Textured Substrate)と呼ばれる二つのプロセスが、それぞれに100 万 A/cm2 を超える臨界電流を実現して、長尺線材の製造に使えるのではないかとする期待が高まっていたが、米国ではやや戦略的にこれら二つのプロセスによる線材製造法の開発が大規模にスタートする気配となってきた。
これらの方法は、これまで、米国では前者はロスアラモス国立研を中心に、後者はオークリッジ国立研を中心に研究されてきたが、電力研究所(EPRI)などの強力な後押しによって、メーカーを主体とする開発フェーズに移行しそうだ。
まず、3月27日EPRI の発表によれば、アメリカンスーパーコンダクター(ASC)社は EPRI との4年間にわたる戦略的共同関係を結んで、ロスアラモス研の IBAD 法の技術移転を受け、エネルギー省、および国防省の資金的な支援を受け、開発研究を開始する。開発に成功すれば ASC 社はロスアラモス研の特許を独占的に使用することが決められている。一方、EPRI はASC 社の株式の一部を確保する形でこの開発に出資する。さらに、開発に当たってはこれまでの DOE、EPRI 関連の研究チームであったローレンスバークレー国立研、スタンフォード大、ウィスコンシン大、Inco Alloys International社などの支援を受けることが可能になる。また、さらに、空軍の Wright Patterson Air Force Base、MIT などの共同チームへの参画も企図されている。
 昨年、ASC 社は独自にロスアラモス研との共同開発を申し込んで断わられ、このため、株価が大幅に下がったと噂された。しかしながら、今回の決定は公的資金の導入を可能とするなど、さらに大規模な開発研究を可能とするものである。このような決定の裏には、EPRI の企画担当である Paul Grant 氏の熱心な根回しがあったことは、識者の認めるところ。Grant 氏が描く長尺線材製造用装置の概念図は図のようなものである。
 一方、オークリッジ国立研のラビット法は、多結晶の銀テープを厚延熱処理することで配向させ、その上にパラジウム、セリア、YSZ、などのバッファー層と厚膜を析出させる方法。サンフランシスコで4月8日より開催された MRS 春季年会で、1 mm厚、200 mm幅, 3mm長の試料で77K 自己磁場中で 200 万 A/cm2, 1T のもとでも 15 万 A/cm2を報告して注目された。これは、試料長さでは IBAD に及ばないが、臨界電流ではむしろ IBAD を凌ぐ結果である。
 これに対して、ベンチャーのMidwest Superconductivity, Inc.(MSI)社(カンサス州 Lawrence に本社)は、ロッキード・マーチン.エネルギー・リサーチ社との間に契約を交し、このラビット法の特許を非独占的に入手したと4月に入り発表した。MSI 社は独自にカンサス大との共同で開発を進めてきた MOCVD 法(有機金属気相析出法)による高温超電導厚膜製造法をこの開発の中で応用する予定とされる。とりあえずは、オークリッジ研で配向銀テープを供給し、MCI 社でバッファ層の形成と超電導薄膜形成とがなされる。これにはウェスティングハウス社、および、電線メーカーの Southwire 社が全面的に協力することも決められている。MSI 社はこのほかにも、高温超電導新物質の探索から超電導/熱電冷却素子の開発などを含め、多くの研究開発テーマをもっているとされるが、これまで一般にはあまり知られた存在ではなかった。
 上記のようにごく最近になって、IBAD 法、ラビット法ともにベンチャー企業を中心に、大企業や国が後押しする形で、共同開発体制が構築され、米国が次世代高温超電導線材開発へ向けた積極的な活動を開始したものとして注目される。我が国では、IBAD 法の創始者であるフジクラ、高温超電導線材開発の有力手、住友電工などが Super-GMプロジェクトの中で金属テープ上の薄膜析出プロセスに基づいた線材開発の研究を進めているが、米国の動きは一気に長尺線材プロセスへの展開を狙おうとする動きとして注目される。

(SSC)


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