SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 8

人間を5cm 浮上させるのに成功 〜 超電導工学研究所

 超電導工学研究所は、超電導体の特性向上と、磁石回路の改良により、写真に示すように、従来の5mmに比べて、10倍以上の高さである5cmの高さで人間を浮上させることに成功したと発表した。今回の成果について同研究所第七研究部長の村上雅人氏にいくつかの質問をしてみた。

1. 浮上は、以前にも行なっており、何が新しいのか?

「現在、超電導体の浮上を利用した実用化研究が活発化しているが、どの程度のギャップがとれるかが、一つの焦点になっている。例えば、大型のフライホイールでは少なくとも4mmは欲しいという要請がある。冷却機構も考えれば、ギャップは大きいほど良い。今回は工夫さえすれば大きなギャップがとれるということを示したかった」

2. ギャップが大きくなった原因は何か?

「まず、前回の浮上で用いた超電導体は、溶融法で作成した多結晶のY123 バルクであったが、今回のものはシングルドメイン(単一粒)であり、同じ条件では浮上力は3倍もある」

3. 磁石の工夫はどうか。

「磁石回路は住友特殊金属が担当している。高く浮上させるという観点では、磁石回路の工夫が大きい。それだけ遠くまで、磁力線が届かないと超電導体との相互作用で力が生じない。今回は磁石を強力にする(NEOMAX30をNEOMAX46にする )とともに、磁石の後ろに鋼鈑を貼り、実質的な磁石の厚みが大きくなるような工夫をしている。さらに同心円状に配しているので回転に対する摩擦もない」

4.新しい系の超電導材料は試したか? 

         「現在、Nd123系というY123系より特性に優れた新しい系の研究を主に行なっているがY123系のように大量に製造する技術はまだ確立されていない。近い将来、同等のものが作れるようになればNd123系でも是非実施したい。なお超電導体は100個以上使っているが、一部は同和鉱業に無償で提供していただいた」

5. 何キロまで大丈夫か?

「浮上高さはもちろん重量にもよるが300kg までは大丈夫である。今回は円盤の重量が70kgで秘書の浅川郁子さん(体重47kg)が載って約5cmの高さで浮上した。当日は関取の土佐の海(体重142kg )も浮上したが、高さは2.5cm であった。研究員の筑本知子さんを併せて4人の女性が載っても浮上できている」

6. 二番煎じという批判もあるが?

「前回の仙台でのデモは、直前に失敗したため、急遽つくったもので、高さも低かったし、回転にも摩擦が生じた。このため、住友特殊金属も私も、能力はあの程度ではないということを一度示したかったのである。それに、超電導を目に見える形で一般の人に公開することは大きな意義があると思う」
最後に、浮上した浅川郁子さんの感想は「思ったよりも浮上は安定していましたが、回転に摩擦がなく、簡単に回ってしまうので、少し怖かった気がします。でも感激しました」    

(田町、引越のS)


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