SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 6

気相法Y 系線材開発 活発化 〜 米国で

  Y系酸化物は77K において強力なピンニング特性を持ち、超電導線材の材料として大変魅力的であるがBi系のように銀シース法によってrailway switch typeの電流パスをとることができないため、酸化物特有の粒界弱結合問題、いわゆる"Dimos Criteria"を克服するためには、いまのところ結晶軸すべてを揃えた単結晶的構造を作る以外に方法がない。フレキシブルな金属テープ上において、気相法を用いてこのような構造を実現する試みが、数年前より日本国内のメーカーを中心に進められてきたが、最近米国において急速に盛んになってきた。
 4月8日から12日にかけて開催されたMRS Spring Meetingにおいて、超電導のシンポジウムとしては初めて"IBAD" (イオンビームアシスト蒸着)というセッションが作られ、多結晶基材を用いた高Jc Y 系膜の発表がまとめて行なわれた。IBAD法は、基材の結晶性に関係なく面内秩序を導入し得る能力をもった蒸着方法で1991年に日本の(株)フジクラによって初めて超電導に応用され、1995年に米国ロスアラモス研によって106A/cm2を超えるJc を実現できることが報告されて、高特性線材実現の可能性がクローズアップされている。これまでのところ、IBAD法にてYSZ及びMgOが多結晶基材上において鋭く配向させ得ることが確認されており、これらの薄膜を配向制御中間層として用いることにより、高Jc YBCO膜が実現されている。
 4月10日朝に行なわれた同セッションでは、IBAD法の発明者であるフジクラ基盤材料研の飯島康裕氏らがIBADによって配向を実現した経緯とその成長構造について、また1m級のテープ材の作製と超電導特性について報告した後、LANLのArendtがYSZ中間層の配向性の向上とそれに伴う高Jc YBCO膜の特性について、またYSZのハイレート合成、長尺合成の試みについて報告した。MITのSonnenbergは、YSZの成長機構に ついて、基材温度や蒸発源の気化方法等の条件を変えた結果から、通常考えられているion-channelingモデルを用いない説明を提案した。一方スタンフォード大のWangは、MgO薄膜が極く薄い状態(150=jで極めて鋭く配向することを示し、同大のHammondは、それを用いて高速で線材の合成が可能であることを示して量産を想定したコスト計算を行なった。
 一方、IBADを用いない面内配向制御の試みも発表された。ORNLのGoyalは、圧延と熱処理によってNiテープが強い面内秩序をもつことを示し、Pd とCeO2を通常の成膜法でバッファ層として蒸着することによって、106 A/cm2を超えるJc を持つYBCO 膜を作成し得たと報告した。これは、日立製作所においてAg 基板上のTBCCO膜という構成で行なっている方法と基本的に同様であるが、YBCOとの界面に酸化防止のバッファ層を設けた点が、理想的なピタキシャル成長に寄与したと説明している。今後、この手法はIBAD法と競合する形で開発が進められていくと思われる。
 その他、IBADによるYSZ 中間層を用いて、多結晶アルミナ基板上にY系薄膜を合成する試みがアーカンソー大及びミュンヘン工科大より発表された。低誘電率、大面積の、安価な基板を用いることによって、マイクロ波の導波路、アンテナへの応用を検討している。現在Y系薄膜の合成はほとんどがレーザー蒸着でおこなわれているが、この種の大面積応用においては、電子ビーム蒸着や、Off-axis RFスパッタリングが検討されている。
 会場は200人収容程度の部屋であったが、IBADのセッションは異常に人気があって、立ち見がでる状態であった。現在、米国においてはEPRIを中心にロスアラモス研、ASC、LBNL、MIT、スタンフォード大、ヒューストン大、ウィスコンシン大等がコンソーシアムを作り、IBAD法の開発を集中的に推し進めようという構想がアナウンスされており今後開発のスピードが早まることが予想される。

(IBAD)


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