SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.5, No.2, May 1996, Article 3

高温超電導ケーブル用導体が50m長に 〜 ビスマス系銀シーステープ線使用で 〜 東京電力/古河電工、東京電力/住友電工

このほど東京電力は古河電工、住友電工とそれぞれ共同で50m長の高温超電導ケーブル用導体を製作し、直流、ならびに交流の通電・性能評価試験を実施した模様だ。本誌Vol. 4, No. 5や応用物理Vol. 65, No. 4にも紹介されているように、東京電力は地中送電用の管路に敷設可能なコンパクトな高温超電導ケーブルの研究開発を精力的に推進しており、今回の成果は導体の長尺化に取り組み、これまで5m〜7mが最長だったものを10倍近くまでの長さに伸ばしたものと位置づけられよう。
 東京電力/古河電工が製作した導体は、長さ50m、臨界電流密度 約10,000 A/cm2を持つビスマス系銀シーステープ多芯線を多層構造でフォーマーに巻き付けたもので外径は38mmである(写真1)。直流臨界電流は1,700A、交流 2,000Arms の通電が確認されているとのことだ。通電試験は導体を直状で冷却容器に設置して行なった。
一方、東京電力/住友電工が製作した導体は長さ50m、臨界電流密度約18,000A/cm2を持つビスマス系銀シーステープ多芯線を多層構造でフォーマーに巻き付けたもので、外径は23mmである(写真2)。直流臨界電流は2,900A であり、交流2,000Armsまで通電を行なって導体の温度上昇が見られないというデータが得られたとのことである。通電試験は曲率部の半径1.2mのU字型の冷却容器に導体を設置して行なった。
 この成果について「機械的な強度が十分強いとは言えない銀シース線を使用して長い導体を作製すること自体一つの開発課題であり、まだ、完全ではないが長尺導体の製作技術にある程度の自信をつけることができた」とプロジェクトマネージャーである東京電力・電力技術研究所の原築志主管研究員は語る。高温超電導ケーブルのメリットであるコンパクト性を達成するには交流損失を極力低減することが重要であり、とくに導体の表面に電流が偏って流れる偏流現象を詳しく調べる必要がある。同所の石井英雄主任によれば「これまでの導体の長さでは端末の接続抵抗の影響で偏流現象が十分に現われない可能性があり、今回、導体の長さを50mに選んだのも偏流現象の調査を行なうため。現在、データを取得中である」と50m 導体での試験を位置づけている。これらの成果の詳細は、本年5月20日から北九州で開催される低温工学/低温材料国際会議(ICEC 16/ICMC)で発表される予定である。
 なお、類似の高温超電導ケーブルの実現を目指した米国EPRIのプロジェクトにおいても50m導体が製作され、直流通電で臨界電流1,800Aが報告されている(本年3月にヒューストンで開催され た高温超電導10周年記念ワークショップにて発表)。東京電力らの研究成果の特長は、実用上、重要な交流通電や交流損失の評価を進めている点であるといえるだろう。

写真1 直状に設置された高温超電導ケーブル用導体(東京電力/古河電工)

写真2 ドラムに巻き取られた50m長高温超電導ケーブル用導体(東京電力/住友電工)

(TN87)


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