SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.1, Feb. 1996, Article 21

CuO2層状構造で超誘電性提唱 〜 横浜国大 菅原教授

横浜国立大学工学部の菅原昌敬教授は、高温超伝導体としての酸化銅層状化合物の組成がずれたところで、CuO2面上の正孔がウィグナー結晶を形成する可能性について理論的に検討し、その結果、正孔密度の適当な値で静的な正孔対形成が生じ、スーパー(ダイエレクトリック)誘電性が生じるのではないかと提唱した。[文献(出版予定):M. Sugahara et al., JJAP( SSDM特集), Feb.1996 ; M. Sugahara, Bull. Fac. Eng. Yokohama Natl. Univ., March 1996] また、同教授は、La2-xSrxCuO4において、x=1/4, 1/16の組成において、室温あるいは低温で測定される誘電率が、実効的に負の値を示すことを見いだし、その提唱を裏付ける事実と考えている。詳細は以下のとおり。
 「超伝導状態は、電子対が運動量空間内の量子状態に充満することに基づいて生じているとすれば、実空間(のある次元)を電子対で充満する場合、運動量と空間座標の相対性により、超伝導と相対な性質が現われるはず。」このような発想のもとに、同教授は1980年代から微粒子超伝導体薄膜を用いて電子対の空間座標を2次元系内に束縛した場合の効果を研究していた。しかし、空間座標が有効に固定されるほど微粒子径が小さいときには超伝導性が不明確となり、また、空間分布も規則性を欠くため、期待した効果は実現できなかったという。
 高温超伝導体発見後、同教授は、これが(i)強結合二次元電子系であるので、もし(ii) CuO2面内に静的正孔対が形成され、(iii)この正孔対系が面内で充満状態となる場合、c 軸方向の正孔対変位に関して、超伝導体と相対的な性質をもつスーパー誘電性が実現できる条件がそろっていると考えた。まず、静的正孔対充満状態での抵抗率の特異性を期待して、La2-xSrxCuO4の抵抗率の正孔密度x 依存性を調べたところ、x=1/4, 1/16, 1/64 近傍で抵抗率の低下を見いだした[APL,63(1993)255 など]。同教授によれば、これにより推測される1正孔対面積2エ4nS(CuO2)(n=1,2,3,…)( S (CuO2)は単位CuO2面積) は、フラストレーションをなくすように銅スピンを反転させながら酸素正孔の対が周回的運動をする際、d波に似た分布の静的正孔対の有効面積として理論的に示されるという。また、p 波に似た分布の4nS(CuO2)の面積を持つ静的正孔対も存在し、x = 1/2, 1/8, …で充満状態になるという。
 この静的正孔対内での正孔の周回的運動の波数をベクトルポテンシャルに対応させれば、(整数)量子ホール効果理論を援用して、x =1/4n(または x = 2/4n)で正孔対系がウィグナー結晶状態となり、CuO2面内では小電流で Rxx = 0、またc 軸方向では負の誘電率が生ずることがわかると同教授は考えている。実験は図の中の試料構造のように、1 mm 厚の(100)STO基板上に数百 nmのLa2-xSrxCuO4薄膜を成膜し、その上と基板裏にPd電極をつけた容量Ct と、STO基板上下にPd電極のある容量CSTOを比較している。ただし、面積は、どちらも5 x 5 mm2 となるように成形してある。
両者の関係は Ct =CSTO / [ 1+( dLSCO / dSTO ) ( eSTO/eLSCO) ] で与えられるから、La2-xSrxCuO4薄膜が単なる導体の場合にはCt /CSTO = 1、またLa2-xSrxCuO4薄膜が単なる絶縁体でeLSCO >0のときにはCt /CSTO<1となるはずである。
 図には強誘電体STOの誘電率がヒステリシスなど、電界依存性を持たない77Kと室温においてx =1/4, 1/16 でCt /CSTO>1となることが示されている。相互拡散による絶縁体厚の変化による寄与がDC/Ct<10-2であって無視できることから、同教授はこの結果がLa2-xSrxCuO4の有効誘電率eLSCOが負であることを示していると考えている。また、Ct / CSTOのLa2-xSrxCuO4膜厚dLSCO依存性もこれを支持しているという。また、その後の測定により4.2Kで x=1/2, 1/8でのCt /CSTOの増加も示されたとのことである。
同教授は、電子スピンの秩序配列で形成される強磁性特性に対し超伝導体では電子対の巨視的電流が反磁性を維持しているように、原子分子の電気分極の秩序配列により形成される通常の誘電性に対し、c軸方向のマクロな正孔対電荷変位が「反電性」を維持する状態 を考えれば「ノーマルキャリア」の導電性と正孔対系の示すスーパー誘電性は矛盾せず併存できると考えている。
光領域でLa2-xSrxCuO4のc軸方向偏光に対し、有効誘電率が負となる測定結果もあることから [K.Tamasaku et al. Phys. Rev. Lett. 72 (1994) 3088]、c 軸方向の電気特性が今後重要となるかも知れない。 いずれにしても、追試による現象の実験的確認がまず第一に必要であろう。
詳細についてのプレプリント請求先:菅原 昌敬、横浜国立大学工学部、240 横浜市保土ケ谷区常盤台156、電話045-335-1451 ファックス045-338-1157 

(EMK記)


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