SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.1, Feb. 1996, Article 22

「高温超電導SQUID技術の到来」 〜 ジョン・クラーク氏の講演

  SQUIDの研究開発で著名なカリフォルニア大学バークレー校のジョン・クラーク教授が来日し、「高温超電導SQUID技術の到来」と題した講演を本年1月9日東京で行った。同技術の全体を展望するのに有益と思われるので、ここに要旨を採録する。
 高温超電導SQUIDの作製プロセスに関しては、YBCOの薄膜成長、粒界接合を用いた接合作製(バイクリスタルやステップエッジ)など十分再現性のある技術が確立してきた。したがって、液体窒素温度で動作する高温超電導SQUIDが、従来型SQUIDと比較して、どの程度優れた性能を発揮できるかという点が課題である。
 SQUIDで磁束を検出するためには、Flux Locked Loop(FLL)回路が用いられる。これは、出力電圧に比例するフィードバック磁束をSQUIDに加えループ磁束を零に保持することで、磁束量子の数十倍以上の線形応答を確保するものである。通常のFLL法を用いた高温超電導SQUIDでは、磁場の最小分解能(感度)は、1/f 雑音により制限される。すなわち雑音パワースペクトルe(f)は、約1kHz以下で周波数fの逆数に比例する。これを越えた周波数では、従来型SQUIDとほぼ同程度の約1.5m\Phi0 / Hz1/2という値をとる。
 低周波における1/f 雑音は、新しい交流FLL法(bias reversal scheme)によって大幅に低減できる。この方法は、交流磁束を重畳し、更に変調磁束と同期してバイアス電流をゆっくり反転させることによって、臨界電流の揺らぎの中で位相の揃わない成分を大幅に低減するものである。最小分解能は、高周波の2倍に満たない2.5m\Phi0 / Hz1/2 (1Hz)にまで抑えられた。
 実用的には、むしろ磁束密度に対する感度が性能の目安である。ところが、SQUID単体のループ面積は極めて小さいので信号磁界を効率よく磁束に変換できないという困難を抱えている。これに対処するため、磁束変圧器(単一ループ)とSQUIDを直接結合する方法が採られている。直接結合の結果、磁束密度の最小分解能SB1/2は、数十kHz以上では 10 fT / Hz1/2、低周波では100 fT / Hz1/2にまで向上できた。測定周波数にもよるが、この値は、地球磁場測定、生体磁気測定、脳磁測定などの応用に十分な感度である。
 しかし、磁束変圧器を用いて有効面積を増大させる方法はインダクタンスの増大を伴うので、ループ面積を無限に大きくできるわけではない。しかし、ループをまたいだ磁気回路を薄膜で形成できれば、渦巻き状のマルチループを用いてインダクタンスの増大を抑えることができる。2枚のYBCO薄膜を絶縁層SrTiO3で分離するプロセス、絶縁層に開けた小さい穴を通して2枚の超電導薄膜のコンタクトをとるプロセスが成功したことによって、より感度の高い多層SQUIDも動きだしたところである。
 また、残る課題として、高周波でなお残る1/f雑音の低減、接合の再現性の向上、低周波での1/f雑音の低減と直流磁場の感度向上が挙げられた。
液体窒素温度で動作するSQUIDが実用になることで、適用分野もより広がりを見せることになった。
地球科学の分野では、高感度の磁場検出器が野外で利用できることから、地表付近の磁気の分布が定量的な測定対象として見なせるようになった。例えば、地表の離れた2点に高周波電界を印加し、地表での観測された磁場との関係から、地表近傍でのインピーダンスの高さ方向を実験的に決定し、水や断層の位置を推定する研究が紹介された。
 また、非破壊検査に関連して、金属の熔接部分に渦電流を発生させたときに、表面付近での漏れ磁束の変化からクラックを検出する技術が紹介された。
 医学応用の点からは、50チャンネルの高温超電導SQUIDを用いて、不整脈を起こした心臓の磁場分布の可視化に関する研究が例として挙げられた。
 本講演会は、昨年9月末に終了した 超伝導センサ研究所における研究成果を、金沢工業大学 人間情報システム研究所に異動した賀戸 久氏が継承発展するに際して、同分野の碩学であるクラーク教授との親交を深めるために関係者を招いて企画されたものである。一般向けの講演も金沢で開催されたという。
 余談として、質疑応答の席で「YBCOの発見から最初の実用的なSQUIDシステムが完成するまでたった7年しか要しなかった。半導体デバイスの歴史と比較すべき」という高温超電導材料の将来性に期待する発言があった。高温超電導体が産業技術として成立するためには、半導体分野における集積回路のような、他の追随を許さない適用例が是非とも必要である。SQUIDはその最前線にいると考えられ、材料・プロセス技術者も積極的に応用分野を提案することが肝要であると思われる。

(skid-way)


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