SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.1, Feb. 1996, Article 15

米国企業の物理研究者はお金持ち? 〜 The Industrial Physicist Newsから

 企業で働く物理研究者の皆さん、あなたがたが企業からどれくらい厚遇されているかを判断する材料があります______ The Industrial Physist に掲載された記事の冒頭である。これはアメリカ物理学協会(The American Institute of Physics; AIP)が その会員に対して行った給与所得調査の紹介であり、企業の物理研究者の平均給与年収、生活費などを学歴・経験・性別・地域によって分類して示したものである。我々にとっても給料は(たぶん研究テーマの次に)関心の高い話題であろう。そこで、この小分ではAIPの調査結果を日米の比較をおり混ぜながら、紹介したい。
(1)博士号は立身出世の道
 博士号は企業で評価されるかという問題は、日米の比較を行う上で欠かせない。ご存じのとおり、アメリカには”論文博士”なる学位はない。博士号を取得するためには、長い学生生活が要求される。もちろん大学院の学生も自活できる程度の給料はもらえるので、日本の学生より暮らしやすいのは確かだが、学生であることに変わりはない。調査結果は、博士号は高く評価されることを示している。まず初任給が高い。昇給率は学部卒、修士、博士で大差はないものの、15年たっても学部卒の給料は博士の初任給を上回れないのだ。その上、博士にはexecutive への道も開かれている。これほど博士を評価する企業は日本にはない。”論文博士”を廃止すれば、博士の地位は向上するだろうか?
(2)企業の研究者は大学の研究者よりお金持ち
 調査結果の示すところによれば、企業で働く研究者の平均年収は75000ドルで、4年制大学で働く研究者の平均年収45000ドルを6割以上上回っている。この状況は日本でも同様であろう。企業から大学に移って来られた先生方の話をうかがうと、給料が増えたという人は一人もいない。ところで、日本物理学会による年収調査データがないのでわからないが、1ドル100円で換算すると、日本の研究者の方が高給取りだろうか?最近、日本からのpos-doc に対してその給料をアメリカ側で負担しないケースが増えていると聞く。アメリカでの予算削減のせいもあるが、円高、ドル安のおかげで日本の研究者が豊か(?)になりすぎたのかもしれない。
(3)男女同権というけれど
 AIP会員の中で女性の博士は全体の9%(修士は15%、学部卒は12%)に過ぎない。日本でも女性の物理研究者は小数だが、アメリカでも事情は似ているようである。理由はわからないが、調査結果の教えるところによれば、女性研究者は男性研究者より平均で12〜15%も給料が低いらしい。日本の場合はどうであろうか?男女雇用機会均等法が施行されて久しいが……。
(4)出入りの激しいシティライフ
 企業の給料は、その地方の物価と相関している。物価の高い都会は給料も高い。例えば東海岸や西海岸の大都市で働いているAIP会員の平均年収は高い。物価については、平均物価を100としてAtranta 94.6、 Houston 96.6 、St. Louis 97.9 、Denver 106.6 に対してLos Angels 123.8 、Boston 135.5 、San Diego 127.2といった具合である。問題なのはインフレによる物価上昇(過去5年で5.6%)に昇給(5%)が追いつかないことで、アメリカ全体が抱えている問題は物理研究者の生活にも影を落としている。日本でも大都市の物価(特に地価)が高いことは同じだが、企業の給料体系も物価を反映しているのだろうか?
 すべてのデータを数値化して分析・公開するあたりはさすがアメリカ、Information Super -highway の国といったところか。 また冒頭でふれたように、調査結果を自分たちの権利・待遇が正当かどうかを判断する材料として紹介するのもいかにもアメリカ的に思える。ただ、こうした試みは個人の権利のためだけでなく、研究者の労働環境を見直し、向上させるのに役立つであろう。一度、日本の物理学会・応物学会でもやってみたらいかがであろうか?

(TERRA)


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