SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.1, Feb. 1996, Article 13

MRI, NMR と高温超電導の研究開発盛んに

 高温超電導の用途開発を巡って、米国では特に MRI への応用が盛んに論議されている(前号にも関連記事)。我が国ではこれまでの超電導メーカーは国家プロジェクトへの依存体質を捨て切れず、商業応用としては超電導部門が独立採算で黒字になった企業は無かったといわれる。しかしながら、極く最近、神戸製鋼所は NMR 用超電導磁石の製造が軌道にのり、超電導部門が我が国で初めて黒字採算となったと噂されており、同社はさらに、西瓜やメロンなどの高級青果検査用の MRI を開発するなど、商業ベースに合わせた用途開発に積極的である。これは、内部構造を見るだけでなく、甘味の客観評価などもできるとされ、青果出荷場では高級品に対して十分な採算が取れるとされる。また、同社は超17テスラの研究用高分解能 NMR 用磁石の製造にも積極的で現時点で世界性能をリードする段階に達している。
 上記は低温超電導線材マグネットを用いてのものであるが、米国では高温超電導検知コイルを用いての簡易型 MRI の実現が MRI 市場を大幅に拡大するとして、研究開発が盛んである。例えば、極く最近ではコンダクタス社が独ジーメンス社と協力して、低磁場 MRI 用(0.2 テスラ)高温超電導検知コイルシステムの開発を発表している。ここに高温超電導コイルを用いるメリットはすでに本誌で述べられているように、バックグラウンド・ノイズを低減して、低磁場でも高感度でかつ解像力の高いシステムが得られるとするもので、コンダクタス社では本年中にも実用 MRI システムのデモンストレーションを行う予定としている。このような低磁場化をはかることで、従来1億円以上したトータルシステムの大幅コストダウンが図れると関連者は主張しており、また、将来的には低磁場用磁石が高温超電導77K磁石で可能とする考え方もある。すでにアメリカンスーパーコンダクター社は77Kでも小型磁石では 0.61 テスラを達成しており、高温超電導線材のコストダウンの動向如何では、トータルシステムとしてのメリットもいずれ出てくることが考えられる。また、低磁場化により、医師と被検者にとっても診断環境が改善され、特に磁石形状の自由度の向上により、医師が患者に接触しながらの診断が可能になるなどのメリットも挙げられている。
 さらには、低コスト MRI の出現は上記の青果検査用に限らず、これまでは考えられなかった分野での MRI の利用を産みだし、MRIが再び超電導市場を大きく進展させるのではないかとする見方が米国では盛んだ。例えば、ポリマーやセラミクス構造材料の非破壊検査に簡易型 MRI を用いようとする考えである。これを可能にするためには、場合によってはこれらの構造材料中に予め検査に必要な物質を添加しておいて、MRI によるイメージングで内部の初期亀裂などを検知できるようにすることなどが可能ではないかとする意見もある。

(PKF)


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