SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.6, Dec. 1995, Article 19

Bi2212単結晶に対する中性子照射効果

 放射線照射は超伝導体にピニングセンターを導入し臨界電流密度Jcを高めるための有力な手法の一つである。とくにこの手法は不純物ドーピングや第二相の析出などの他の手法と比べて、試料作成過程とは独立に用いることができ、また、照射量や照射種、エネルギーなど照射条件を選択することによりピニングセンターのサイズ・形状や分布濃度を容易に調整できることなどの利点を持つことから、応用からピニング機構の解明を目指した基礎的な研究まで広く用いられている。中でも中性子照射は飛程の長さや利用の容易さの点から、応用上魅力的である。
 さて、放射線照射を超伝導材料の特性改質の手法として用いる場合には、さまざまな照射条件について、それによって生ずる構造変化、物性変化の関係を明らかにすることが重要である。東大システム量子工学専攻寺井隆幸助教授らのグループは、Bi2212単結晶について、中性子照射による超伝導特性と結晶構造の変化を、広い照射量範囲(0.6×1017〜3×1018/cm2)について系統的に調べ、その関係を明らかにした。(詳細は K.Kusagaya et.al. Physica C235-240 (1994) 2975,  寺井・草ヶ谷・筑本・岸尾・田中 東京大学工学部総合試験所年報 第54巻(1995)P.119)
 その結果をまとめると、(1)室温における電気比抵抗値は中性子照射量の増大にともなって 2×1017/cm2までに1桁ほど低下したが、臨界温度Tcについては1×1018/cm2までほとんど変化がみられなかった、(2)c軸格子定数は照射量に伴って若干増大、(3)照射後いずれの照射量においてもJcは増大、Jcが最大となる最適な照射量は0.2〜1×1018/cm2であった(最適フルーエンスでのJcの増大は特に30K以上の高温で顕著であり、その割合は40Kで2桁程度である)、ということである。

(ぽんちゃん)


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