SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.6, Dec. 1995, Article 17

第7回日米高温超電導ワークショップ参加報告 〜 線材関係

 さる10月24、25日に金属材料技術研究所で開催された第7回日米高温超電導ワークショップにおいて、ビスマス系を始めとする超電導線材の開発状況が日米双方より数多く報告された。作製できる線材の長さでは Bi2223テープ線材に関して住友電工、ASC(American Superconductor Co.)、IGC(Intermagnetic General Co.)の3社において1.2〜1.3kmであり、これまでの発表と同様であるが、その臨界電流値は液体窒素中で1万A/cm2を越えており、実用的な値に達したといえる。これに加えて目をひいたのは、コイル製作の際に最も使用される長さである100〜400mクラスの線材の特性向上である。上記の3社とも原料粉末や加工、熱処理プロセスの最適化によって2万5千 A /cm2を越える臨界電流密度を得ている。これらの線材を用いた応用として、ASCのDr.Morozemoffが磁気分離用のモデルコイルにおいて、液体窒素中で0.16 T(内径2インチ、外径7インチ、総線材長2.2km)の磁場発生に成功したと報告した。これに対して住友電工の佐藤謙一氏は 、この2月に発表した21K中で3Tの磁場発生を記録したマグネット(内径60mm、外径180mm)において液体窒素中で0.66Tの磁場を発生したと報告した。この値はBi2223線材が低磁場応用の領域では、液体窒素中で十分に使用し得ることを示すものである。
 これに対してBi2212線材では高磁場インサートマグネットを念頭においた発表が相次いだ。日立製作所・金属材料技術研究所の共同で開発した多芯銀シース線材は、液体ヘリウム中で臨界電流値は500Aを越えており(臨界電流密度で47万)、30Tの磁場中でも17万A/cm2を保つ。この線材で作製したマグネットは、コイル内径は15mmと小さいものの、臨界電流値で550 Aを示し、3.3Tの磁場を発生した。日立製作所岡田道哉氏によれば、このコイルは高磁場中で使用した場合にかかる応力対策という点でまだ不十分であり、今後補強に関する検討を進める必要があるとのことであった。
 このような磁場およびハンドリングの応力に対する補強の位置手段として強化銀を用いた研究が日米を問わず多くの研究期間から報告された。いずれにおいても、銀中に微量の添加元素を入れ、熱処理中に添加元素が酸化されて析出することによって銀の強度を上げるというもの。添加元素が酸化物と直接接触して熱性が低下することを、多芯線材の外皮のみに使用して防ぐという手法も報告された添加元素はMg, Mg+Ni, Ti Zr, Sb 等研究期間においてさまざまであるがBi2223系、2212系のいずれにも適用可能で強度は従来の純銀シース線材の2〜3倍となる。
 Y系線材では、フジクラ及び Los Alamosにおいて液体窒素中で100万A/cm2の臨界電流密度が報告された。いずれもハステロイ上に面内配向したYSZの中間層を設け、その上にレーザーアブレーションでY123結晶を成膜したもの。Los Alamosでは、膜厚を2μmまで上げた5cmのサンプルで液体窒素中で臨界電流値198A、フジクラでは10cm で42Aを得ている。いずれにおいても、長尺化にまだ多くの課題を残すものの、液体窒素中での応用に関して、この値は魅力的なものである。このように、超電導線材は着実に特性向上が行われており、これらの線材を用いて展開できる新しい応用分野が待たれるところである。
 学会をとおして感じられたのは、酸化物超電導線材(特にビスマス系超電導線材)を「応用」に展開していこうという気運が強いことであった。特にアメリカではDOEのプロジェクトのいくつかが終了に近づいていることもあり、着実に成果が上がっていることがうかがえた。

(昭和電線電纜・長谷川隆代)


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