SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.6, Dec. 1995, Article 11

超高速LSI用超伝導単結晶電子デバイスの提案

 最近、ISEC'95(1995年超伝導エレクトロニクス国際会議、9月18日〜21日、名古屋国際会議場)が開催された。この中で、東北大学の山下努教授と立木昌教授は、銅酸化物単結晶中の低周波プラズマ励起に関する研究の一つとして新しい超高速の集積回路用電子デバイスを提案した。
 現在、層状超伝導体単結晶の低周波プラズマ励起現象の存在が明かになりつつある(東大内田教授の初観測)。このプラズマ周波数ωp はジョセフソン・プラズマ周波数ωj よりも約100倍高いTHz帯にある。
CuO2導電層と半導体的ブロック層の積層構造は、定性的にはジョセフソン接合の積層と同じ性質を示すが、対応する物理量は約2桁の違いがある(表1参照)。したがってジョセフソン接合に代えて、層状単結晶を用いたデバイスを考えると、それらの性能は約2桁の向上が見込まれるというものである。c軸方向にゲート電流を流し、入力電流によりab 層に制御磁界を加えるゲートが基本素子である(図1,図 2参照)。このゲートが十分な電流利得を持つためのゲート長はlc≧λc(c軸方向の磁界侵入長=1 mm)となり、ジョセフソン接合の場合のlj ≧λj(=100mm)より2桁小さい。ゲートの占有面積は単結晶中の1個の磁束量子の大きさlab lc=0.1mm2となり、超小型ゲートが実現できる。この場合の最大超伝導電流 I 0 = j0c s=50mA 、オフ状態での出力電圧V0= h Φ0 vF /4lablc=10mVとなる(vF;磁束量子の速度)。このV0の値は速やかに次段を駆動できる。スイッチ時間は、磁束量子がゲートを横切る時間 tB = lc / vF = 1/wp = 10-13 s、すなわちサブpsとなる。メモリセルはゲート単結晶の中心に適当な大きさの穴を導入し、2接合SQUIDの構造を作ることにより実現できる。動作はジョセフソン接合SQUID セルと同じであるが、集積度と動作速度は約2桁改善される。このゲートを並列すると超伝導大電流スイッチが実現される。このゲートの入出力特性の線形領域を用いると相互抵抗 rm = m0 h vF / w =10Ωの磁束流増幅器を実現可能である。この磁束流増幅器はωp 付近以上、すなわち数10THz帯まで動作できる超高周波線形増幅器となる。これらのデバイスに欠陥の少ない単結晶を用いると、物理的、化学的欠陥に由来する雑音は極小化できるため、低雑音特性が期待できる。 したがって低雑音磁束センサーやTHz 帯までのミキサーも可能であるという。
このデバイスは、完全単結晶が要求されるために、材料としては大型高品質単結晶が育成されているLa2-xSrxCuO4が有力である。La2-xSrxCuO4は日本(東大グループ)で最初に発見された材料でもある。LSCO単結晶を東北大に提供している山梨大学の児嶋弘直教授は「LSCO単結晶がジョセフソン接合と同じ動作をするとは想像もしていなかった。LSCO単結晶が新しい超高速の集積回路用電子デバイスとして開発されれば、半導体のSi と同様に電子材料分野への好影響が期待される。単結晶育成に携わっている我々は大型高品質のLSCO単結晶育成にこれからも努力したい。」とコメントしている。
 前記した層状超伝導体単結晶における低周波プラズマ励起現象の初観測と今回の東北大・山下、立木教授による超伝導単結晶電子デバイスの提案は、ともに日本オリジナルの画期的発見および発案であり、将来、本原理による実用的電子デバイスが開発されれば超伝導分野およびエレクトロニクス分野へのインパクトはジョセフソン素子あるいはエサキダイオードを凌駕するものと期待される。本デバイスが早期に原理証明されるよう、お祈りしたい。

表 銅酸化物単結晶とジョセフソン・トンネル結合

>図1 単結晶スイッチのモデル

図2 単結晶ゲートの出力電圧V0

(YF)


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