SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.6, Dec. 1995, Article 7

コンダクタス社・スタンフォード大乳癌検査用 MRI 装置開発へ

コンダクタス社とスタンフォード大磁気共鳴研究所は共同で NRL と ARPA とより4億5千万円の研究費を得て、0.02 T(200 G)という非常に低い磁場の下での乳癌検査用 MRI 装置開発に着手することが決定された。 これはコンダクタス社が開発した核磁気共鳴検知用高感度高温 超伝導体コイルを用い、スタンフォード大の開発したPrepolarized Magnetic Resonance Imaging 法と組み合わせ、弱い磁場のパルス磁石で検査を可能とするもので、関連者はこれにより乳癌検査を現在のX 線から MRI に代替することができ、X線被爆の心配なく検査が可能になると期待している。これまでも MRI による検査は可能ではあったが、より強い磁場を必要としたため、装置が大型化し、検査にまでは装置を使用する余裕がなかった。
 同装置はスタンフォード大の新技術と高温超伝導検知コイルの低いノイズ、高感度、および、半導体アンプの冷却による低ノイズ化を要素技術とするもので、SQUID のプリアンプを用いる可能性もある。コンダクタスはこれまで Varian Associates 社と共同で MRI 用高温超伝導応用技術の開発に取り組んで来た。スタンフォード大では電気工学科の Albert Macovski 教授、Nishimura 教授らがこの開発にあたる。
 東大工学部北沢宏一教授は「米国では NMR および MRI 基本技術にバリエーションをつけ、さらに高温超伝導検知コイル、SQUID、さらに冷凍機直冷型超伝導磁石の採用などを併せた種々の方向の研究に研究開発予算がついていることが顕著になってきている。NMR- MRIがこれまでの高級研究ー医療機器という分野から、広い分野への汎用機器として大化けするという予想がなされており、産学共同による研究チームの設立も極めて活発である。またベンチャーキャピタルも AT&T など大手の関連するものも含めて、この分野への投資を活発に行ない始めている。我が国ではこれまで MRI が比較的大きなビジネスとして成立していたものが、円高の影響で国内生産に陰りが見え、そのための超伝導磁石製造も低調になったため、研究開発への自信を失っているように見えることが心配。」とコメントしている。さらに「高温超伝導開発においても、我が国においてせっかくスモールビジネスのチャンスが生まれても、開発を行なった大企業が製造市販に乗り出さず、その技術を中小企業に技術移転することもせず、そのままチャンスを失い、結局、米国などベンチャーの生産をまって、そこからの輸入に頼る傾向が明かになってきている。日本が老大企業病に陥ってきていることの現われといえるのではないか」と警告している。
 米国物理学会では96年3月18〜22日に開催されるセントルイスでの春年会において科学物理部会と材料物理部会それぞれ緊急に新しいNMR と MRI の進展に合わせて特別セッションを設けることになり、招待講演とともに一般講演を募集し始めた。これには研究と共に装置開発が含まれる。一方、米国マサチュセッツ州 Wilmington のAdvanced NMR Systems, Inc 社は極く最近二つの日本の研究機関から高磁場 MRI を受注したことを表明している。NMR 技術は新たな展開期を迎えつつあるように思われる。

(PKF)


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