SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.6, Dec. 1995, Article 4

超高磁場NMR軌道に 〜 神戸製鋼所、ジャパン マグネット テクノロジー、マグネックス

 本誌Vol.3 No.2 (1994)に掲載のように、(株)神戸製鋼所は、同社の関係会社であるジャパンマグネットテクノロジー(JMT)(株)およびMagnex Scientific Limited (英国)と共同で、常圧液体ヘリウム温度(絶対温度4.2度)で中心磁場強度17.6テスラの磁場強度を持つNMR(核磁気共鳴)分析装置用超電導マグネットの開発に成功している。この磁場は、プロトンの核磁気共鳴周波数で750MHzに相当し、NMR用として磁場均一度に優れた仕様となっている。
 1994年3月米国ペンシルバニヤ大学 に納入された1号機は、納入以来順調に稼働を続け、NMRマグネットに必要とされる磁場安定度が高く、実際の磁場減衰率は4Hz/h以下と従来からある低磁場機種 (600MHz以下マグネット) にも勝る性能を示している。液体ヘリウム補充間隔も、55日仕様に対して実績は90日以上と極めて使いやすいマグネットとして好評である。 
写真はペンシルバニヤ大学で稼働中にプロトンのシグナルを確認している様子を示したものである。
 ペンシルバニヤ大学Department of Chemistry, Prof. Stanley J. Opellaらはこのマグネットをブルカー社製のDMX750コンソールと組み合わせ、タンパク質などの高分子化合物の構造分析に使用している。従来使用していた600MHzNMRマグネットと比較して明らかに分解能および感度が増していることが確認され、貴重なNMRデータが多数得られている。
図1 には同じタンパク質の2次元HMQC ( heteronuclear multiple quantum correlation )スペクトルを(a)750MHzマグネットと(b)600MHzマグネットで得た例を比較して示す。750MHzマグネットで得たスペクトルのピークの方が明瞭であることが見て取れる。図中左上の拡大部分でピークが2つに分離していることも初めて確認されている。これらのデータはExperimental NMR Conference など学会でも発表され注目を集めている。
このことにより、NMRユーザーの間では750MHzマグネット導入の気運が急速に高まり、神戸製鋼所グループもすでに欧米の研究機関を中心に数台を納入。本年11月には国内で初めて神戸大学へ納入を果たした。さらに来年前半にも国内で数台の納入を予定している。750MHzマグネットは次第にポピュラーなものとして定着しつつあると言えよう。
神戸製鋼所グループでは、自社で開発した高性能の高磁場NMR用ニオブ3スズ超電導線を用い、さらに800MHz(18.8T)NMR用超電導マグネットを開発中であるが、現在と同じ形式の常圧液体ヘリウム温度のクライオスタットを用いる限り、ニオブ3スズの臨界磁場からこのあたりが開発限界と考えられる。
 現在、日米の国立研究機関において減圧ポンプを用いてクライオスタット内温度を約2Kまで下げることにより、さらに高磁場のNMRマグネットを開発する計画が進行している。米国では、Battel研究所がナローボアーの900MHz(21.1T)NMRマグネットの製作に着手している。また、National High Magnetic Field Laboratoryでは、900MHzNMRマグネットを超ワイドボアで作り、さらにその内層に酸化物超電導コイルを組み合わせる事により1GHz(23.5T)以上を得るプロジェクトが計画されている。
国内でも、本誌 vol.4 No.1 (1995) にあるように、金属材料技術研究所が超流動ヘリウム(1.8K)のクライオスタットを用いた金属系超電導材の超ワイドボア900MHzNMRマグネットと酸化物超電導コイルを組み合わせた1GHzNMRマグネットの開発プロジェクトをスタートしている。
超高磁場NMRの実用化が軌道に乗り始めるとともに、さらに挑戦的な研究開発が推進されている状況と言えよう。特に注目すべきは酸化物超電導マグネットの開発動向であろう。酸化物超電導線材はその優れた臨界電流の高磁場特性から、21T以上の超高磁場マグネット用線材の有力候補と考えられており、酸化物マグネットもいよいよ大規模プロジェクトの一翼を担うことになる。しかし、NMRマグネットでは単に磁場強度だけではなく、 高い磁場均一度、磁場安定度等が要求される。これらの要求を満たすには線材強度向上、超電導接続技術の開発、フラックスクリープの問題の回避など解決すべき課題が山積しており、酸化物超電導の本格的実用化へ向けての試金石といえそうだ。
この件に関する技術的な問い合わせ先:神戸製鋼所電子技術研究所超電導研究室 嶋田雅生氏, 電話:078-992-5652, ファックス:078-992-5650

図 15Nで均質にラベルした蛋白質資料の2次元HMQCスペクトル

写真

(M. Shimada)


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