SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.6, Dec. 1995, Article 2

1m 長のYBCO薄膜超電導線材で臨界電流密度150,000A/cm2を達成 〜 東京電力・住友電工

 東京電力・電力技術研究所と住友電工大阪研究所は11月1日浜松で開かれたISS' 95で、薄膜法であるレーザ蒸着法を用いて1m長線材を作製し、全長の臨界電流密度として150,000A/cm2が得られたと発表した。線材構造は、0.15mm厚、10mm幅のジルコニア中間層を形成したハステロイ(Ni合金)テープ基板上にYBCO超電導薄膜を成膜したもの。成膜は中間層、超電導層ともに基板移動を行ったレーザ蒸着法で行っている。
 Y系薄膜法線材はBi系 Agシース線などの固相法線材と比較し、高い臨界電流密度が得られることが期待されているが、これまでは超電導層の配向性が悪く数万A/cm2の電流密度に留まっていた。これは、YBCO超電導体の粒界構造により、多結晶では高い臨界電流密度が得られないことが原因であり、高臨界電流密度化のためには、結晶粒に配向性を付与し、単結晶に近い構造にすることが必要であった。今回発表された線材はジルコニア中間層を基板に垂直に c 軸配向させ、さらに、b軸にも基板面内で配向性を与える(面内配向)ことによって、YBCO 超電導層を配向化させたものである。これによって十万A/cm2を超える臨界電流密度が1m全長で達成されている。このような配向化技術は日本ではフジクラ、米ではロスアラモス国立研がIBAD法(イオンビームアシスト蒸着法)によって研究開発を進めており、小片基板上ではあるが百万A/cm2を超える特性を確認している。
 これに対して、今回東京電力と住友電工が開発した配向化技術は、IBAD法は使用しておらず、レーザ蒸着法だけで実現されており、アシスト用のイオン源を用いないため成膜装置が、煩雑にならず、実験パラメータも少なくてすむまた成膜速度も速く、面内配向化ジルコニア中間層の成膜速度で0.1〜0.5μm/分が達成されている。発表では、10 cm長線材で300,000A/cm2、小片基板上では430,000A/cm2 の臨界電流密度も報告されており、メートルオーダーの線材でさらに高い臨界電流密度が期待できそうである。

(SINKON)


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