SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.5, Oct. 1995, Article 12

ホウ素炭化物超伝導体のドハース・ファンアルフェン振動 〜 金材研

 金属材料技術研究所の寺嶋太一氏らは、ホウ素炭化物超伝導体YNi2B2Cの常伝導及び超伝導状態で、ドハース・ファンアルフェン振動(dHvA振動)の観測に成功した。(図1、Solid State Commun. 96 (1995) 459に掲載)dHvA振動は、低温で金属の磁化が、磁場に対して振動する現象で、そこからフェルミ面を決定することができる。フェルミ面は、金属の顔とも言うべきもので、その形状を知れば金属の様々な性質を予想することができる。このため酸化物高温超伝導体でも、フェルミ面を実験的に詳細に決定しようとする試みが、様々な研究者によって行われている。
 今回用いたYNi2B2Cの試料は、同研究所の竹屋浩幸氏らによって、フローティングゾーン法によって育成された単結晶である。この単結晶は、育成後の熱処理をすることなしに、転移温度15.6K転移幅 0.7Kという優れた超伝導特性を示す。常伝導状態では、幾つかのdHvA振動のブランチが観測され、複数のフェルミ面が存在することを示す(図2)。最も周波数の高いブランチγは、ブリルアンゾーンの約30%を占める大きなフェルミ面からの信号である。それぞれのブランチが、バンド計算で予想されているどのフェルミ面に対応するかは、現在検討中である。αブランチの信号は上部臨界磁場(Hc2 =8.1T)以下の混合状態でも明瞭に観測された(図1)。
 従来、超伝導状態では試料中から外部磁場が排除されるため、超伝導体のdHvA振動の観測は不可能と考えられていたが、近年NbSe2、V3Si、Nb3Sn、YBCO等の第2種超伝導体の混合状態でdHvA振動の観測例が報告されている。寺嶋氏らの報告は、混合状態でdHvA振動が観測可能であることをさらに確固としたものにしたといえる。

図1 YNi2B2Cの常伝導状態(挿入図)及び超伝導状態でのdHvA振動

図2 dHvA振動の磁場方位依存性。横軸は磁場方位。縦軸はdHvA振動の周波数で、磁場に垂直なフェルミ面の断面積に比例する。

(固体物理のミーハー研究者)


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