SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.5, Oct. 1995, Article 11

ISTEC-SRL 国際的上級教育機関としての役割も

 国際超電導産業技術研究開発センター(ISTEC)傘下の超電導工学研究所(SRL)は設立8年目を迎えたが、平成6年度の海外からのポストドク(博士研究員)受け入れは 29 名に達し、全研究員の4分の1に達している。内訳は ISTEC フェロー制度により23 名、STA フェロー(科学技術庁の制度)6 名であった。超電導工研では、国際的研究風景が日常化し、研究員はそれを普通のこととして感じているようだ。また、これら海外からの研究者の活躍も目だつようになって来ており、切瑳琢磨することにより、よい成果を得ることに寄与していると所員の評価も上々だ。また彼らの帰国後の評価も高く、大学、国研、民間企業などが受け入れている。ただ、途上国からの研究者は自国での受け入れ機関が限られるという事情があるようだ。今後ISTECフェローに代わって NEDO フェロー新設により、この制度はさらに充実すると見込まれている。
 一方、国内民間企業からの受け入れ研究者は、すでに博士号をもつ研究者もいるが、多くは修士課程、学部卒で、滞在2〜3年の研究成果をもとに後に会社に戻ってから 博士号を取得する動きが目だっており、平成6年度だけでも博士号取得者が6名、申請者は9名に達した。大学でもこれだけの人数の博士を輩出できる機関は世界にも存在せず、その意味ですでに超電導関連において世界最大の上級教育機関としての地位を築いたということもできる。また、海外からの研究者の訪問も頻繁で、平成6年度だけで 14 ケ国 83 件の訪問があったとされる。このような事実は、これまでの世界に全く存在しない、新しいタイプの「教育」研究機関として SRL が結果的に育ってきていることを意味し、今後の我が国のとるべき研究機関の試金石として話題を呼んでいる。
 このような SRL の活動に対して、大学関連者は複雑な表情も垣間見せている。中には「超電導工研が国と民間のお金と人をすべて吸い上げてしまい、大学は日照りのたんぼだ」と嘆く大学研究者もいる。日本の大学の貧弱な研究予算(実質研究費としては教官一人当たり 300 万円程度)に比べると、SRL は一人当たり実質研究予算にして数倍程度、国研の倍強の研究費と推定され、現在は世界でも最も研究費に恵まれた超電導研究機関であることは間違いなさそうだ。大型単結晶成長装置など、SRL が他の研究機関では全く真似のできない重点投資をしていることが、世界の研究者の注目の的でもある。
 このような大学関連者の見方に対して、SRL は大学との共同研究を積極的に受け入れる態勢を固め始めており 、そのための予算も計上された。すでに名大、物性研、などとの共同研究がスタートしていたが、平成7年度からは東大を含めてより広く共同研究を開始する模様だ。共同研究に加わっている研究者は若手を中心に、教官、学生の交流も含めて SRL 研究員との実質的な共同研究が成立するテーマが選ばれているようだ。SRL 側は「互いを補完し合い、両者にメリットのある形で研究レベル向上の見込める共同研究を開拓していきたい」としている。
 さらに、SRL 研究員を経由した研究の人事交流が表面化してきた。我が国の研究ポテンシャル向上の最大の問題点は大学や国研の人事停滞にあることはよく指摘されることであるが、SRL はこれまで主として海外大学、電総研などの国研、東大などの大学、NHK、NTT、松下電産、旭硝子、など多くの民間企業より人材をかなり強引に吸収してきた。最近になって、東工大への教授転出、名大客員教授など外部への供出余力もでてきているようにみられる。活発な人事交流の続行は、発足 8 年を経た SRL が今後我が国の真の COE に成長できるかどうかの鍵となるとみられる。せっかく慣れた人材を送りだすことは研究機関のリーダーにとっては痛手でもあるが、人事交流は COE の義務とされる。SRL が人事交流の上でも我が国の旧弊打破の先頭を切ることができれば、インパクトはさらに大きなものがあろう。

(PKLIFF)


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