SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.5, Oct. 1995, Article 8

科学技術研究費に変化

 我が国では超伝導関連研究費において特に大学関連予算が昨年以来、文部省科学研究費重点領域プロジェクトの終了などで苦境に陥っている。予算は洋の東西を問わず悩みの種である。
米国では政府財政赤字解消のために国防省(DOD)、エネルギー省(DOE)、商務省(DOC)関連の予算大幅削減が検討されており、DOEとDOCは解体が検討されている。これは共和党の伸長の中で 2002 年までの政府財政赤字解消計画策定の中で議論されているもの。超伝導関連研究の多くはこれらの省を通じて支出されており、また、DOEとDOCの傘下には多くの国立研究所がある。米国の科学技術研究費は国家予算主導型であり、なかでも、軍事費からの支出が半分を越していたが、このような動きは超伝導にとどまらず基礎科学研究一般に大きな動揺を与えている。
 一方、我が国は民間主導型の科学技術研究投資のパターンとなっていたが、不況の長期化のなかで、これが色褪せてきた。このため、景気刺激策の一環として、政府財政からの科学技術振興策が自民党加藤紘一政調会長を中心に打ち出され、すでにNEDOによる提案公募型研究の募集などが行なわれた。来年度以降は新技術事業団、学術振興会、NEDOがこれを受け継ぎ、それぞれ工夫を凝らした形で研究費配分がなされることがほぼ決定している。その金額は最低でも 200-300 億円以上とされ、現在の文部省科学研究費総額 900 数十億円の何割かに達することを考えると大きな変動となることは間違いない。
 このような中で各研究者は研究費配分の方式を理解しての対応が必要であろう。たとえば、文部省科学研究費の場合には審査は主として大学の同分野研究者によってなされ、分野の指定は申請に基づいて見直され、また、各分野の配分額はその分野からの全体の申請数がどれだけあったかによって決められる。したがって、「我々の分野には配分額が少ない」といった議論はこのメカニズムの理解が不十分なことによるといわざるを得ないであろう。たとえば生物関連のある分野では、助手、技官を含めて一人が必ず数件以上の代表者としての申請を行なうという。現在の採択率は約3割であるから、この場合には一人に 1〜2 件の割合で科研費が採択されることになる。一つの研究室で4件の一般Aを申請すると1件が当たる確率だ。逆にいうと、満を持して1件だけを申請し、それが当たると誰か同分野の人に迷惑をかけていることになるという人もいる。NEDO でも国研の研究者によって主として審査が行なわれる以外は、同様の配分方式といわれており、結局は申請件数がその分野の配分額を決めている。特に工学部系の人達はこの配分機構をよく理解せずに、配分の不均等の不満を口にする場合が多いようだ。
 一方、私立大や地方大への配分が少ないということもよく言われる。これも実体としては、まず、申請件数自体が非常に少なく、審査段階でこれら大学からの申請の評価点数にゲタを履かせて、むしろ、他大学よりも有利に計らうといった努力がなされている場合もあるとされる。予算の基本は申請書の提出にあるようだ。いずれにせよ、今後、科学技術研究予算の配分の仕方に変化が生じていくことが考えられるので、十分な観察と検討が必要だ。

(PKF)


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