SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.5, Oct. 1995, Article 9

高温超電導体を用いたヒステリシスモータ

 1995年7月にマウイ島で開催されたMRS・ISTEC共催の超電導ワークショップにおいて、Moscow State Aviation InstituteのL.K.Kovalevらの高温超電導体を用いたヒステリシスモータに関する論文が発表され、ワークショップの中の優れた発表として賞を受けた。
 通常のヒステリシスモータは、固定子が誘導モータや同期モータと同様の構造をして回転磁界を発生し、回転子が円筒状の半硬磁性材料(保持力Hc の比較的小さな永久磁石材料、ヒステリシスリング)からなっている。固定子起磁力によってヒステリシスリング回転子を磁化し、そのヒステリシス特性によって生じる回転磁界との間の位相差によりトルクを発生する。ヒステリシスモータは回転がスムーズで低騒音、堅牢であるが、効率や力率が低く、高価であるという欠点が一般にある。出力トルクはヒステリシスループの大きな材料を使用した方が大きくなるが、あくまでも固定子の発生する回転磁界がヒステリシスリングを飽和するまで励磁できるだけの大きさがなければならない。
 KovalevらはヒステリシスリングとしてYBCOバルク材を利用し、モータ出力密度の向上を実現している。先に述べたようにヒステリシスループが大きすぎてもそれを使いきれないので、高温超電導体としてもそれほど高い電流特性は要求されず、したがってヒステリシスモータというのは比較的近いうちに実現することが期待されている。具体的な用途としては、液体水素燃料ポンプ用モータや超電導ジャイロスコープのモータなどがある。高温超電導ヒステリシスモータとして考えられる図の3つの構造のうち、Kovalevらは円筒状回転子構造のものを出力数Wから数百W程度のまで製作し、ヒステリシス損失の測定も含めてモータ特性の測定を行っている。また、ディスクモータ型のヒステリシスモータも製作している。さらに、ドイツのJenaにあるInstitut fuer Physikalische Hochtechnologie e.V. Material SciencesのDr. W. Gawalekと共同で、ヒステリシスリング直径25mm、長さ40mmのヒステリシスモータを製作し、表のような特性を得ている。超電導体を使用しない通常のヒステリシスモータと大きさを比較すると写真のようになり、かなりの小型化が可能であることを示している。
このモータに関して東京大学工学部の大崎博之助教授は次のように述べている。「ヒステリシスモータというのは特殊機器にときどき用いられるモータであり、超電導化したとしてもモータ特性そのものが高性能な同期モータ程度まであげることは容易ではないと考えられる。しかし、ヒステリシスモータの小型化としては大きな効果があるのではないか。トルク発生にヒステリシス特性を直接利用するので超電導応用としても興味深いものがあるが、一方でたとえ超電導体の電流輸送特性(ピン止め特性)が向上してもそれをそのまま生かしきれない場合もあるというジレンマもある。また、実用化のためには、超電導バルク材料特性の経年変化や冷却系も含めたモータの信頼性の確認が必要である。」    

Parameters of the motor
Type of HTS rotor cylinder of melt-textured YBCO
Dimensions of HTS elements Dエdエl mm 25エ4エ40
Current frequency f Hz 50
Phase number / Pole number m / p 3 / 2
Phase reactance Xc Ohm 70 (f=50Hz)
Phase resistance Rc Ohm ~35
Phase current Ic A 1.3
Phase voltage uc V 220
Magnetic field in air gap Bc T 0.2
Synchronous speed n 1 / min 3000
Mechanical torque Ms g cm 2250
Output power Ns W 80

(Dr.Magnet)


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