SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.5, Oct. 1995, Article 6

MRIの技術に進展 〜 プリンストン大・SUNY-Stony Brook チーム

 American Physical Society News 4(7) 1995 によるとPrinceton University と SUNY-Stony Brook のチームは"Hyperpolarized gas imaging" と呼ばれる高偏極させたXenonガスを用いた新しいMRI技術の開発に成功した。通常のMRIは高磁場によって偏極させた水の中の陽子(水素の原子核)の核磁気共鳴(Magnetic Resonance)信号を使って像を撮るため、肺などのように水分の少ない部位については撮影が難しかったが、この研究では患者に吸入させた高偏極したXenonガスのMR信号を使うことで肺の気道の撮影に成功した。共同研究者の一人W. Happer氏(Princeton Univ.)は、この記事の中で「この方法のキーは大きな角運動量を持ったXenonを用いたことで、そのための中心となる技術は光ポンピングとスピン交換である」と述べている。彼等の方法では、まずレーザーを用いて光ポンピングによりCesium 等のアルカリ金属原子を高いスピンを持った状態に励起し、その後アルカリ金属原子と希ガス原子間のスピン交換相互作用によりXenonを高スピン状態に励起する。これによりXenonガスはMRI中で水素の陽子の100,000倍以上も偏極するようになるため、より良いMR像の撮影が可能になった。また、肺で吸収されたXenonは血液中に溶けて脳や心臓の血管にも達するため将来は脳の働きや、心臓の撮影にも応用できると期待されている。また、この方法は既存のMRIシステムでもそれほどの費用をかけずに取り入れることができるため経済的にも有利である。
 一般に、NMR、MRIではその精度の向上のために磁場を強くする傾向があるが、その一方ですでに酸化物超電導体を用いたプローブコイル(本誌Vol.4, No. 3の東芝やConductus社に関する記事を参照)を使用した現状のNMR、MRIシステムに殆ど手を加えることなく高磁場を使用した場合に相当する能力を得る方法も実現している。例えば、Conductus社のR. Wither 氏のアメリカ物理学会の講演によると400MHz 9.4Tesla NMRに通常の銅製プローブコイルの代わりに彼らの酸化物コイルを使用することで750MHz 17.6Tesla相当の能力になるということであり、特にコストを比較すると彼らの酸化物コイルを用いた9.4Tesla NMRでは約400,000ドルであるが17.6Tesla相当のNMRでは2,000,000ドル以上であるため、コスト面の有利さは明らかであると言うことである。これらの低磁場におけるMRIの精度を高くする技術がさらに進むと将来は低磁場でも十分な能力を持ったMRIが実現するだろう。

(白黒猫)


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