SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.5, Oct. 1995, Article 3

高温超電導ケーブルの開発プロジェクトが日米欧3極に 〜 欧州でも開発が開始される

 これまで本誌上でも紹介されたように、 高温超電導体を導体部分に適用した電力ケーブルの研究開発が日米で活発に進められている(たとえば本誌Vol.3、No.5ならびに Vol.4、No.1No.4)が、 このほど、欧州においても独国で高温超電導ケーブルの開発が開始されたことがアナウンスされた(EUCAS 1995年7月、英国エジンバラ)。いずれのプロジェクトもビスマス系の銀シース線を多層に集合させて通電導体とすることをねらったものである。
 日本では、東京電力が住友電工、古河電工と個別に共同研究を組織し、民間ベースで開発が進められている。一方、米国では、DOEの資金を得て、EPRI(米電力中央研究所)、American Superconductor社、Pirelli社が開発チームを組んで取り組んでいる。独の場合は、連邦科学技術省からの資金により、Simensの研究所と送配電グループを主体に大学・国立研究所の協力体制で開発に臨んでいる。国からの研究資金をベースにプロジェクトが組織されているという点では、米国と欧州は類似した体制であるといえよう。
 日本の東電のプロジェクトでは、平成5年に5m長で3000Aの電流容量を持つフレキシブル導体が開発されており、電流密度でも導体形状で13000A/cm2 が達成されている。さらに、本年5月には、66kV/1000A級の高温超電導ケーブルプロトタイプ(3相一括型ならびに終端部を備えた単相型)の開発に成功し、連続通電試験、課電試験に成功したことを報じており、実現に向けて着々と成果をあげている(本誌Vol.4、No.4)。
 米国のEPRIのプロジェクトでは、昨年1m長で3100A(彼らのアナウンスでは4200Aであるが、臨界電流の決定基準が1μV/cmなので、東電が用いている基準10-13 Ωmベースの数値を示した。数値はAmerican Superconductor 社のGannon、Jr.氏からの私信。)のフレキシブル導体の開発を報じている。現在は、次のステップである30mのモデルケーブルの開発に入っているものと推測されるが、進捗の詳細は現在のところ明らかでない。
 ここで、上記2つのプロジェクトが目指す高温超電導ケーブルには構造上大きな相違点があることを指摘しておこう。東電が採用しているのは、いわゆる低温電気絶縁方式とよばれるもので、通電導体を形成する導体の外層に電気絶縁層を設け、さらにその外層に導体部と同じ電流容量を持つ超電導線を使用して磁気遮蔽層をとりつける。これを3 相分一括で断熱管に収納し、ケーブルとする。従って、電気絶縁層も液体窒素により冷却されることになる。磁気遮蔽層は他の相に磁界が加わるのを防ぎ、交流損失の低減や断熱管の渦電流損失の低減に効果があり、コンパクトで大容量のケーブルに必要不可欠である。一方、EPRI のタイプは、通電導体の外層に断熱管を取り付け、その外側に電気絶縁層を設けるものである。この構造では電気絶縁層は室温にあり、室温電気絶縁方式と呼ばれる。このため、従来から使用され実績のある絶縁体を使用することが可能で、新たな開発の必要がないというメリットがある。しかし、磁気遮蔽層が存在しないため、他の相からの磁界による交流損失の増大、断熱管に発生する渦電流損失などのため、大容量化が難しいと考えられている。
 独の目標仕様やケーブルの構造の詳細ははっきりしていないが、既に2m長モデル導体が試作されており、700Aの通電を行ったということだ。今後の成果に注目したい。

(TN87)


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