SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 14

Y系薄膜の表面平滑性向上に新技術〜 東京工大

 東京工業大学量子効果エレクトロニクス研究センターの小田俊理教授、大学院生の山本修一郎、川口篤史氏らはY系薄膜において酸化銅を主成分とする析出物と基板転位の位置関係に相関があることを明かにし、基板界面での酸化銅の生成を抑制させることにより、析出物の除去に成功し、表面平滑性向上に新技術を見いだした。
 これまでY系超伝導薄膜では、酸化銅を主成分とする析出物が薄膜形成時にどうしても付随して生成することが知られており、このため素子を形成することが困難であった。今回の成功はこの問題を解決する糸口を与えたものとして注目される。この技術は析出物がチタン酸ストロンチウム基板の転位の位置に現われるとする観測に立脚して考えられたものであり、図はその観察結果である。析出物の現われている位置がエッチピットの現われている位置に対応しており、このことから小田教授らは析出物が基板の転位からエピタキシー成長したものであると解釈している。
 小田研究室ではMOCVDによりY系薄膜の作製が行なわれているが、特にYBCO のc 軸方向の構成元素に着目し、交互に1原子層ずつ原料の供給を行なう原子層MOCVD という独自の手法において析出物が皆無で 薄膜表面のラフネスが±1分子層以内の超平滑膜の作製に成功している。しかしながら、固体であるCVD原料の不安定性のため、再現性という点に関して問題が顕在化している。そのため再現性良く安定して高品質薄膜を作製できる技術が求められていた。とくに積層型トンネル接合素子を作製するためには、原子層レベルでの表面平滑性が不可欠であり、また析出物もピンホールとしてリーク電流の原因になる恐れがある。
 そこで今回は、酸化銅を主成分とする析出物がチタン酸ストロンチウム基板の転位から選択的にエピタキシー成長しているというメカニズムを仮定し、基板界面での銅原料の供給に配慮し、成膜をおこなうことにより、析出物の除去が試みられた。酸化銅はYBCO に比べて成長速度が著しく速く、一度安定な結晶相を作ると分解されにくいと考えられている。そこで、基板との界面において酸化銅の生成を未然に防ぐために原料供給のシーケンスを変えて成膜が行なわれた。Layer-by-Layer法では、Ba→Cu →Ba →Cu →Y →Cuという順にこれを1サイクルとして原料の供給が行なわれているが、今回はBa(2原子層)→Y (1原子層)→Cu(3原子層)というBlock-by-Block法で原料の供給を行ない、最初にCu が供給されるまでに析出物となり得る安定な結晶相が生成されないように成膜が行なわれた。原料の供給量が等しくなる条件で成膜を行った結果、Layer-by-Layerでは析出物が生じているが、Block-by-Blockでは全くなくなっており、最初に供給するBaの量を増やすことにより析出物を抑制できていると考えられる。
 小田教授は「Y系薄膜において析出物を抑制するためには成長初期段階における原料の供給が重要であり、特にCu 原料が基板界面に接しないようにBaをBlocking Layerとしてピンホールが存在しないように供給を行なうことがポイントであると考えている。今後はマトリックス部の平滑性を吟味し、成長初期段階をBlock-by-Blockで行ない、その後をLayer-by-Layerで行なうなど、 さらなる検討を行なっていきたいと考えている」と述べている。
なお、本技術の発表に対して1995年度の国際超伝導ワークショップ「優秀性能賞」が与えられた。

図 YBCO析出物とSTOエッチピットの位置関係

(太郎)


[ 前の号へ| 前の記事へ| 目次へ| 次の記事へ| 次の号へ]