SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 13

単結晶の大型化進む、薄膜用基板も作製〜 超電導工研

 超電導工学研究所の第4研究部(塩原融部長)のグループでは、これまでに独自に改良型引き上げ法を開発し、Y系酸化物超電導材料の単結晶作製の研究を精力的に進めてきている。6月に開催された国際超電導 ワークショップにて、同研究所はさらに単結晶の大型化、高品質化の技術開発が進み、表面状態の良好な基板の作製にも成功していることを報告し、これに対してマウイでのISTEC/MRSワークショップの単結晶・基板部門の優秀賞が授与された。
 Y系酸化物超電導材料単結晶は、包晶反応により晶出するが、溶質濃度が低く、液相線勾配も急峻であるため成長速度が低く、大きな結晶を得ることは困難であった。そこで、同研究所では温度勾配下で溶質供給源を溶液と共存させることにより、通常のフラックス法よりも高い過飽和度を実現し、安定してバルク単結晶を作製する技術を開発していた。さらに大型の単結晶を作製するためには、溶液の対流状態をできるだけ正確に把握することが重要となっていたが、大型コンピューターを用いた数値シミュレーションにより、溶液対流状態の特性を解析し、その結果をもとに安定定常結晶成長条件を制御して大型単結晶育成を実現したものである。最大クラスでは、17mm角で結晶長12mmのYBCO単結晶が得られており、図1のような直胴部を有する大型単結晶も作製されている。
 超電導デバイス用基板としてY系超電導材料単結晶を利用するためには、結晶性向上も重要な課題となるが、これまでは互いに10分の数度傾いた複数の小傾角粒界で構成された結晶しか得られていなかった。 これらの小傾角粒界は主として種結晶から引き継がれたものであり、同研究所では種結晶の品質を改善することにより、小傾角粒界をほとんど含まない高品質のYBCO単結晶を得ることに成功した。また、基板応用のためには同様に基板表面モフォロジーも重要な要素である。同研究所では基板表面の研磨条件の検討を進めるにことにより、1cm角の基板で表面モフォロジーを向上させることに成功した。図 2 にAFMによる表面形状測定結果を示すが、1原子層に相当する段差をもつステップが観測され、その表面平坦性が原子層レベルであることが確認された。
 以上のような単結晶の大型化、高品質化、基板表面特性の向上はY系超電導材料単結晶基板の応用研究にはずみをつけるものであると期待されるとともに、同研究所ではすでにYを他のレアアースで置換した材料についても幅広く研究を進めている。特にNdBCOは包晶温度近傍においてNd の溶解度が高く、液相線勾配が緩やかなことから、「結晶成長がかなり容易で今後有望である」とのことである。

図1 c軸方向に成長した単結晶外観

図2 YBCO単結晶研磨基板のAFM像

(Y.N.)


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