SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.4, No.4, Aug. 1995, Article 12

大型8インチY系薄膜ウェーハ〜 ミュンヘン工科大

 ミュンヘン工科大学のKinder氏羅は、ユニークな構造の基板ホルダーを備えた共蒸着装置を用い、8インチのサファイア基板上に均一成に優れた高品質のYBCO薄膜を作製することに成功した。
 高温超伝導体の応用展開を進めるうえで、薄膜の大面積化は避けてとおることのできない課題であり、とりわけ、早期の実用化が期待されるSQUID の磁束変換コイルやMRI用のピックアップコイル、GHz帯域のマイクロ波受動素子などの作製のためには、3インチ以上の基板を用いた超伝導薄膜が 強く望まれていた。ミュンヘン工科大の今回の成功は、今後の大面積化技術に一つの方向を示したものとして、大いに注目される。
 ミュンヘン工科大グループの用いた蒸着装置は図1のようなものであり、 蒸着系自体はいたってシンプルな構成となっている。装置にはYSZ, MgO, CeO2などのバッファー層を作製するためのE ガンも装着されているが、YBCO薄膜自体の作製は抵抗加熱ボートを用いて行なわれる。制御系は水晶振動子膜圧モニターによるヒーター電流へのフィードバックのみである。この装置の最大の特徴はそのユニークな基板ホルダーにある。図から分かるとおり、毎秒5回転以上の高速で回転する大型基板は、蒸着の行なわれる領域を除いて、上下にヒーターが配された「酸化室」とでも呼ぶべきブロックの中に設置される。このブロックの側壁と基板との間隔は0.2mmにまで狭めてある。ブロック内部に供給された酸素ガスは基板との隙間からチャンバーにリークされるが、「酸化室」とチャンバー間には2〜3桁の差圧を作ることができる。この結果、毎秒$狽フレートでの成膜においては十分に均一な酸化が進行し、高品質のYBCO薄膜が得られるという。
 この装置の基本的構成は2年前に米国ボールダー市で開催されたISTEC(International Superconductive Electronics Conference)で報告されている。その時点では3インチのLaAlO3基板が用いられていたことを考慮すると、わずか2年で大幅な大面積化が達成されたことになる。
 8インチのウエハー内での臨界温度ならびに77Kでの臨界電流値の分布は非接触の磁気誘導法で評価された。その結果、基板ホルダーの陰となるウヱハー中央部5mm程度を除けば、十分な均一性が確認された。臨界電流値自体も77Kで106 A/cm2以上と、実用レベルに達している。
 Conductus社のK.Char氏は「この方法で作製された薄膜を実際に入手し、自分で評価してみたが、その結果は十分に満足できるものであった。この結果を受けて、Conductus社でも同様な装置の製作を開始した」と語った。米国ARPAプログラムでは高温超伝導体の応用開発を加速するため、本年度から、4インチ以上の基板上に作製したYBCO膜を供給するベンダーの育成に着手する予定である。ミュンヘン工科大の定時した大面積化の手法はこの動きに一石を投じるものとなろう。

(JJY)


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